LIGHTNING STRIKERS : START 02-05



「うそ……だっ」

 目の前に存在する事実に、フェイトは否定の言葉をもって相対した。
 リニスと、かつて呼ばれた彼女はもういない。どこにもいないのだ。

 直接その最後を見届けたわけではない。だが、フェイトは確かにリニスとの別れを体験したのだ。

 生きていてほしいと、どれほど思わったことか。
 もう一度会いたいと、どれだけ願わったことか。

 だが、それでも、それはもう終わってしまったことなのだ。

 プレシアやアリシアと同じ。彼女はもう二度と自分の前に現れることのない存在なのだ。
 とても悲しくて、泣き出してしまいそうな事だとしても、それが真実なのだ。
 故に、フェイトは叫ぶ。嘘だと、今自分の目の前にいる存在はただのまやかしでしかないと。
 そんな彼女の叫びに、意外なことに目の前で微笑む彼女は静かに頷いた。

「ええ、失ったものが甦ることはありません。ですから、私は泡沫の幻でしかないんですよ、フェイト」

 彼女は言う。自らがニセモノだと。
 かつてと変わらぬ笑顔で、かつてと変わらぬ出で立ちで。

「シュピーゲル。管理局に封印されていた古代遺物で、その効力は記憶の実体化――です」

 人差し指を立て、まるで講義でもするかのように言葉を紡ぐリニス。
 その姿はあまりにも隙だらけで、今目の前にいる彼女は自分の目的を阻害する敵でしかないというのに、フェイトは動くことができなかった。

「死者の蘇生、と呼ぶにはあまりにも粗悪ですね。この身はあくまで対象者の記憶から創り上げたそれらしい代替品でしかありませんし、魔力供給が絶たれればすぐに消えてしまうような存在です」

 そう言って、穏やかに微笑むリニス。
 自らを紛い物と卑下する彼女のその動作は、その表情は、その声は、忘れようの無いフェイトの思い出と寸分違わぬモノであった。

「まぁ、貴方の記憶から作られてますから、フェイトからしてみれば本物にしか見えないかもしれませんけどね。確かに、ここまで欠損のない状態で実体化するのは稀みたいですけど……私のことをしっかり覚えておいてくれたんですね、フェイト」

 それはただの偽者で、紛い物で、単なる記憶の残滓でしかないというのに。

「ふふ、よくよく考えたら“私”というのもおかしな話ですね。私は貴方の記憶から作られた偽者でしかないのに――」

 なのに、フェイトは今にも泣き出しそうに、表情を歪めていた。

「もう……いいよ……」

 フェイトの喉から必死に紡がれる言葉は、表情に微笑を貼り付けたままのリニスへと向けられる。
 その声に遮られるようにリニスの言葉は断ち切られ、場にはただ沈黙だけが残った。

「貴方の目的は、私を止めることでしょう……でも、でも私は――」

 悲痛な表情でフェイトは言葉を紡ぐ。
 今、目の前にいるリニスは、フェイトの記憶からできた存在だ。だから目の前にいるリニスが知っていることはフェイト自身も知っている。シュピーゲルと呼ばれる古代遺物の情報もアトラスの提示した資料に記されていた情報そのものだ。
 だからフェイトも知っている。目の前の彼女は、かつて自分が大好きだった彼女ではなく――。

「シュピーゲルによって実体化した存在は、シュピーゲルを持っている者の命令に逆らうことはできない」

 ――ただの操り人形なのだ。

 それを示すかのように再度、リニスの柔らかな声が場に響いた。
 かつて、この古代遺物を創造した存在が何を目的とし、こんなものを創ったのかは解らない。
 だが、戦乱の時代に兵器として使われることを前提に創り上げられたものならば、それには制御装置が必要となる。故に、シュピーゲルによって実体化した存在はそのマスターたる存在の命令に逆らえぬよう予めプログラムされているのだ。

 つまり、彼女はシュピーゲルの持ち主たるエリオが最後に言い残した言葉――フェイトの足止めを実行しているに過ぎない。
 こうして、言葉を交わしている間にもエリオはフェイトの手の届かぬ場所に行ってしまう。
 それを回避するためには、フェイトは一刻も早くこの場を切り抜け、エリオを追いかけなければならないのだ。

 だから――

「私は、彼を追いかけなきゃいけない」

 フェイトは、リニスにバルディッシュの先端を突きつけた。
 ニセモノだと、幻覚だと理解していてもそれを為すのにフェイトがいったいどれほどの覚悟を有したのか余人にはけして理解することはできないだろう。
 ただフェイトの手は、震えていた。
 それを見て、リニスは困ったように一つ息をつく。

「例え偽者だとしても、貴方の記憶から作られた身です。できるならば手荒なことはせずに済ませたかったのですが……」

 残念そうに、彼女は呟く。確かに、今の彼女はフェイトを足止めするためだけに、この場に存在している。その命令が違われることはけしてない。今の彼女は与えられた命令に逆らう事のできない存在なのだ。

 ただ、その方法として会話を選んだのはリニス自身の意思だろう。彼女の言葉は心の底からの真実であった。
 だがしかし、もはや言葉ではフェイトを止めることはできないと、リニスも思い至る。
 だから、彼女は悲しそうに呟くのであった。

「命令が下された以上、フェイト。貴方をここから先に通すわけにはいきません」
「それでも、私は……あの子を追わなくちゃ……」

 絞り出すかのようなフェイトの言葉にリニスは優しく頷いた。
 作られた紛い物だろうと、泡沫の幻だろうと、そこに居たのは、かつてリニスと呼ばれていたフェイトの大切な人だった。

「では、始めましょうフェイト……勉強の時間です」

 彼女は言う。かつてフェイトに魔法を教えていたあの頃のように。
 それが、戦いの始まりを告げる合図だった。

 ●

 戦闘開始の合図と同時に、フェイトは動いた。

 彼女の勝利条件はリニスを倒すことではない。彼女の妨害を抜け、エリオを追いかけることだ。
 だから、フェイトはリニスではなく、その向こう側を見据えトップスピードで駆ける。

 黄金色に光る魔力を帯びて疾駆するその姿は、まさしく雷の如く。当然のように速さもそれに準じている。
 エース・オブ・エースと呼ばれた存在ですら対応することの難しい速度をもって、彼女は一気に駆ける。

 自分のもてる最高速度で、一気にこの場から離脱することが彼女の狙いだった。
 その意図に相手が気づいた頃にはもう遅い。その時点でフェイトはもはや手の届かぬ場所にまで距離を離していることだろう。

 だが――彼女の意図は始めの一歩を踏みしめたところであっさりと瓦解した。

 目の前に、突如として黄金の輝きを放つ檻が現れたのだ。それが何十にも編まれた魔力刃の集合体であることを理解するのと、フェイトが自らに制動を掛けるのはほぼ同時。

「通さない、と言いましたよ?」

 たたらを踏むフェイトに、微笑を向けてリニスが言う。
 今のは予め設定した座標に誰かが侵入すると同時に、魔力刃が四方から突き出す性質を持ったトラップ系魔法の一種だ。
 そのスピードから考えて、フェイトが動いてから張られたものとは考えにくい。ならばこのトラップはリニスが先程フェイトと言葉を交わしていた時には既に設置していたのだろう。

「貴方は誰よりも優しい、それは美徳ではありますが状況によっては最大の弱点にもなりえます」

 リニスは完全にフェイトの思考を読んでいた。彼女が攻撃ではなく、この場からの離脱を優先すると。
 そして、その予測は物の見事に的中する。先の一連の動きの中で罠を張り終えたリニスは、回避も防御もすることなく、ただ立ち尽くしていただけだ。もし、フェイトの最初の一撃がリニスへと向けて放たれた攻撃だったならば、それだけで勝敗は決していたことだろう。だがフェイトはリニスを攻撃しなかった。

 エリオを追うことがフェイトの勝利条件だからではない。
 ただフェイトにはリニスの姿をした者を傷つける覚悟が無いだけなのだ。

「減点一ですフェイト。貴方は今、何を守りたいんですか?」

 そんなフェイトを、リニスは不甲斐ない生徒を見るような憐憫の眼差しで見つめる。
 その声が、その視線が、フェイトの大事な何かを浸食していく。

「くっ――」

 惑わされるな、とフェイトは考える。
 あれはただ、自分のよく知る懐かしい存在の姿をした紛い物だと、心の中で何度も唱える。
 だが、事実はどうあれ、そのような思考に陥っている時点でフェイトは目の前の存在に惑わされている事に他ならない。
 そこに浮かぶ表情を見て、リニスは悲しげに視線を伏せる。

「失望しましたよ、フェイト」
「――っ!?」

 その容赦の無い一言に、フェイトの表情が青褪めていくのが解った。

「確かにあの頃と比べ、貴方は成長しました。魔力は増え、技量は上がり、数多くの経験を積んだのでしょう」

 言いながら、彼女は右手を掲げた。
 大きく、暗雲の立ち込める天に向けて。

「けれどフェイト、貴方はどうしようもなく弱い」

 リニスが掲げた掌の先、空に、黄金色に輝く光球が現れた。
 フォトンランサー。フェイトが得意とする射撃魔法。その発射体となるスフィアがひとつ、宙に浮いた。
 それもまた、リニスが彼女に教えた魔法の一つだった。

「フェイト、今から私は貴方を倒します。あの少年を追いたいのならば、私を倒しなさい」

 右手を大きく空に向けたまま、リニスは優しく、そう呟いた。
 その姿は、やはりあまりにも隙だらけで、その気になれば倒すことは容易だっただろう。
 きっと彼女は反撃どころか、防御も回避もしない。それは予測以上の確信を持っていえる確かな事だった。
 だが――フェイトは動けない。手は震え、ただリニスを見上げることしかできなかった。
 それを見て、リニスは本当に辛そうに、小さく呟いた。

「……残念です、フェイト」

 その間に、宙に浮く光球の数が増えた。
 一つだったものが二つに、二つが四つに、四が八に、十六、三十二、六十四――――。

 暗雲のひしめく空に、まるで満天の星空のようにリニスの作り出した黄金の光球が空を覆う。
 それはあまりにも美しい光景で、それを見上げるフェイトにとっては戦慄せざるを得ない光景だった。
 かつて、リニスはこの魔法を対絶対防御能力者に対する必殺の一撃としてフェイトに教えた。
 その矛先が、今、フェイト自身に向けられていた。

雷 の 槍 よフォトンランサー雨 の 如 くレイニーシフト

 まるで、断罪を告げるかのように、リニスは振り上げた手を振り下ろしながら呟いた。

《――! Defenser!!》

 瞬間、フェイトの手の中でバルディッシュが自動的に魔法を発動する。彼はその光を見た瞬間理解した。これは避けることも防ぐこともできないと。だから、それは彼が自分の主を守る為にとった、できる限りの抵抗であった。
 フェイトは、結局最後まで動くことができなかった。

 ――そして、光の雨が降り注いだ。

 それは、まさに暴雨であった。金色に輝く光の槍の群れが流星となり、天に浮かぶ光球から降り注ぐ。
 総計百二十七にも及ぶ光球から秒間七発で発射される雷の槍は、もはや大瀑布と呼ぶに相応しい様相を示していた。
 本来の使用方法である一点集中による防御破壊ではなく、広く数多く降り注ぐフォトンランサーの群れはリニスの視界にあるものを全て巻き込み、破壊する――それは言うなれば、対絶対回避能力者を倒す為に放たれた一撃だった。
 降り注ぐ雨の全てを避けられる者など、どこにも存在しないのだから。

「――――――ッッ!!」

 叫びか、悲鳴か。響く声が次々と鳴り響く爆圧の音に掻き消される。
 そして、現れた時と同じように、雷の雨は唐突に消え去った。その魔法行使時間は僅か四秒。だが、たったそれだけの時間で三千五百五十六のフォトンランサーが大地に打ち込まれ、地形の形すら容易に変えてしまっていた。
 それを成し遂げたリニスは感情を消したままの眼差しで、眼下を睥睨する。その右腕の肘から先が、薄い粒子状の光と化し、薄く掻き消えていた。おそらく純粋に魔力によって形成されている彼女の身体が大規模魔法の影響により維持できなくなっているのだろう。

 だが、右腕を失ったかわりにリニスが得たモノが目の前にある結果だった。
 完全に破壊し尽くされた大地の中央部、フェイトが横臥していた。
 バリアジャケットは破壊し尽くされボロボロになり、そこから覗く肌もあちこちが焦げ付いている。回避ではなく防御をを選んだバルディッシュの判断は最善の行動であったが、それすらもリニスの放った無数のフォトンランサーによる連打には無力でしかなかった。

「…………う、ぐっ……」

 苦しげな呻き声がフェイトの唇から漏れる。彼女はそのまま大地に手をつき、身を起こそうと奮闘するが、その手も震え、覚束ない。
 立ち上がったところで、もはや彼女の身が戦闘に耐えられぬ事だけは確かだった。
 そんな彼女の姿を、リニスはただただ冷ややかに見つめる。先程まであった笑顔も、そこにはもうない。ただ冷ややかに彼女は告げる。

「無駄です。その身体では彼を追う事は不可能でしょう。大人しく諦めなさい」

 最後通告にも似た言葉。そんな彼女の言葉通り、フェイトの身体は既に限界をとうに超えていた。
 地に付いた腕から力が抜け、その場に再び倒れ伏すフェイト。雨でぬかるんだ泥が跳ね、その身を無残に汚していく。
 それでも、足掻くように大地を掻き毟るり、前へと進もうとするフェイト。

 そんな姿を、リニスは無言のまま暫く見つめ――結局、別れの言葉さえ告げることなく彼女はフェイトに背を向け、その場から去っていった。
 後には、ただ泥に塗れたフェイトが一人、残されてた。

 ●

 群れる木々を掻き分け、一人の少年が駆けていた。
 エリオ・モンディアルと呼ばれていた少年だ。彼はどこか頼りなさげな足取りで、ふらふらと道なき道を蛇行する。その顔色も青く、どこか憔悴している様子が見てとれた。

 そんな彼の右手の中から淡い輝きが漏れている。
 光を発しているのは彼が握っている手鏡。光そのものの正体は魔力が発する光の輝きだ。
 魔導に詳しい者が見れば、理解することができただろう。シュピーゲルが魔力を通すための経路をエリオのリンカーコアへと伸ばし、今まさにエリオの魔力を吸い上げているのを。

 シュピーゲル。記憶を実体化させるという現代技術においては実現不可能な力を持つ古代遺物。
 だがしかし、それもまた奇跡の範疇には届かない。

 何かを為すにはそれ相応の代償を払わなければならないのは、万物における絶対条件だ。
 シュピーゲルの場合、そのひとつが使用者の莫大な魔力であった。

 対象者の記憶から創りだされた者は実体を持たない偽者でしかない。その身は血と肉と骨でできているわけではなく、純粋な魔力の集合体でしかない。致命傷を負ったところで血を流すことは無く、魔力の塵となって消えるだけだ。しかし、そうなるとその身体を構成する為には莫大な魔力が必要となる。シュピーゲル自体にも空気中の魔力を自然に蓄える機構を備えてはいるものの、どうしても不足分が生じてしまうのだ。

 いまそのツケが、エリオのリンカーコアに蓄えられていた魔力から支払われていた。
 エリオの身体を襲う不調の原因は、半強制的に魔力を吸い上げられていることによる弊害だ。このまま魔力流出が進めばそれこそ死に至る可能性すらある。

「がっ……はぁ……」

 エリオの足取りは憔悴からか、けして定まることなく、そのまま木に肩をぶつけ崩れるようにその場に腰を下ろす。焦点の定まらぬままの視線で、彼は忌々しげに自分の右手を見つめる。そこには自身の魔力で強く輝き続ける手鏡がひとつ。

 最悪の場合、エリオもシュピーゲルを一度廃棄するつもりであったが、今となってはそれも遅きに失したというしかない。侵食型の古代遺物であるシュピーゲルは力を発動した時点で宿主との融合を開始していた。すでに右掌の皮膚は手鏡と完全に癒着し、時を追うごとに更に深く食い込んでくる。もはや手放すことさえ不可能である。
 もはやどうにもならぬことを確認すると、エリオは苦しげに呻きながら再び立ち上がり、再び歩み始める。

「頭が……痛い……」

 断続的に襲い掛かってくる頭痛に顔を顰め、額を抑えるエリオ。
 急激な魔力消費によるリンカーコアへの負担は体力の低下に加え、精神障害すら引き起こしかねない危険な状態だ。エリオの思考はまるで靄が掛かったかのように淀み、自分が今なにをしているのかさえあやふやになってくる。
 この古代遺物のかつての所有者は暴走とも呼べる強引な魔力供給に耐え切れずに記憶障害を起こし、今も病院のベッドの上で寝たきりの生活を過ごしているのだ。結局のところ制御することのできない過ぎた力は己の身を滅ぼす結果しか生み出さない。

 だが、とエリオは己の唇を噛み締めた。切れた口の端から血の雫が流れるが、そのおかげで思考は僅かにクリアになる。そうして、考えるのは、

 ……やらなくちゃいけないことがある。

 それを忘れるわけにはいかないと、エリオは強く拳を握り締めた。

 ――父さんと、母さんを蘇らせてみせる。

 考えるのは、ただそれだけ。
 そうだ。そうして取り戻さなくてはならない。あの失われた幸せを。
 その為に、何もかもを犠牲にしてもかまわないと誓った。
 それ以外の全てを投げ打ってでも手に入れたいものができた。

 ……ああ、けれど――ボクは何を捨ててしまったのだろうか?

 頭が痛い。思考できない。思い出せない。
 いや、もういい。そんなことはもうどうでもいい。
 大事なのは、自分の目的を達成すること。その為に必要でない物の事など忘れてしまって構わない。
 いらない。いらない。何もかも必要じゃあない。
 必要なのは折れぬ意思と確固たる目的だけでいい。
 それ以外の何もかもを、捨ててしまえばいい。

「――カ、ハハッ。そうだ、ボクには父さんと母さんがいる。それで充分じゃないか」

 急に、思考が晴れやかになった気がした。頭痛は消え失せ、魔力の流れも安定し始める。
 先程までの不調がまるで嘘のように、以前より身体が軽くなった気さえした。

 ふと、右手を見てみれば、シュピーゲルは完全に右手と融合してしまったのか、影も形もなくなっている。残滓と言えば掌に刺青のように刻まれた手鏡の紋様だけだ。
 エリオは何度かその掌を開け閉めし、違和感が無いことを確認すると、強く強く拳を握り締めた。
 その顔に浮かぶ表情は笑みだ。どこか晴れやかな気持ちのまま、エリオは再び目的地へ向かうべく歩き出そうとして――

「エリオ……くん!」

 だが、唐突に呼ばれたその名が、引き金となった。

 先程よりもなお酷い、まるで頭の中に太い釘を打ち込まれたかのような頭痛が走り、吐き気を覚える。
 抗いようの無いその苦しみに、エリオは身を折り、喘ぐようなえずきを繰り返す。
 何が自分の身に起きたのか解らず、エリオは苦悶の表情を浮かべたまま声のした方向を仰ぎ見た。
 そこにはエリオと同年齢と思われる桃色の髪をした少女が、驚きの眼差しでこちらに向かって駆け出していた。


 それは――エリオの見知らぬ・・・・少女だった。





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