かいだんをしよう!! 後編


 機動六課の隊舎は皆さんご存知の通り、部隊発足の前に新設されたものです。

 基本的に新しい隊舎なので、そういった噂とは縁のないものと思われてきました。
 けれど、この隊舎は元々、ここ湾岸部にあった古い施設を取り壊してできた土地に建てられたんだそうです。

 当然、もともとあった施設は全て取り壊される――その予定でした。

 けど、工事中に思いがけない事が起きたんです。
 施設の大部分は全て重機で取り壊したんですが――その際、一部屋だけ完璧な保存状態で残った部屋があったんです。

 それだけならば、偶然で片付いたかもしれません。

 けれど、問題の部屋はその後、如何なる手段を用いても壊す事ができなかったそうです。
 重機で壊そうとすれば、原因不明なまま重機が止まり、工事用のツルハシで壊そうとしたところ、その人は大怪我をしてしまった……とか。

 結局、その部屋を取り壊す事はできず、今もこの機動六課に、他と区別が付かないようにカモフラージュされ開かずの部屋として残っているっていう噂です。
 そして最近ではこの噂に加えてもう一つ。夜の隊舎で女の人のすすり泣く声がするっていう話……皆さんは聞いたことがありませんか?

 夜勤の方が度々聞いているそうです。そしてそれは決まってとある部屋――誰も使っていないはずの空き倉庫から聞こえてくるそうです。
 やがて、二つの噂は一つの結論を導き出します。つまり、女性のすすり泣く声が聞こえてくるのは、問題の開かずの部屋なんじゃないかって。

 それを調べようと、勇気あるヘリパイロットのVさんが夜の隊舎で寝ずの番をしていると――女性のすすり泣く声が聞こえてきたんです!
 Vさんは幽霊なんかいるわけがないと、その声を頼りに――ひとつの部屋にたどり着きます。

 そして彼は、ドアノブを握ると一気にその扉を開くと――


 ●


「そこにはポニーテールの女騎士がいて「ニートじゃない。私はニートじゃない」と言いながら泣いているって言う……あれ? みなさん、どうしたんです?」

 見れば、皆はエリオから視線を外していた。
 誰もが気まずそうに俯き、エリオの方を見ないようにしていた。

 そんな皆の反応に、エリオは自分の話が滑ったのかと慌て、失態を取り返そうと、さらに付随する噂話として、

「あ、ええと。似たような話で医務室から度々「デバンガナイィィ」っていう怨嗟の声が聞こえる、って言う噂が――」
「エリオ……それは、そっとしておいてあげましょう」

 けれど、その言葉はエリオの肩をガッチリと掴み、諭してきたティアナに遮られる。
 なんだろう、吹聴してはいけない類の話なのだろうか――とも考えるがエリオには解らない。

 ――と、そこへ唐突に扉のノック音が響いた。

 コンコン、と鳴る音に付随する声は、

「スバルにティアナーちょっとごめんね。ここにエリオとキャロはいる?」

 聞き覚えのある声。扉の向こうから聞こえてくる声に部屋の四人は一瞬だけ不思議そうに顔を見合わせた後、

「どうしたんですか、なのはさん? エリオとキャロならここにいますけど?」

 声の主の名を呼びながら、一番出入り口に近い位置に居たスバルが立ち上がり、その扉を開く。
 するとそこには寝巻き姿の高町なのはと――その後ろに控えるフェイト。両隊長の姿があり、

「あ……エリオ達いたよフェイトちゃん。もーだから心配しなくてもいいって言ったのに」
「ご、ごめんね皆。邪魔しちゃったかな? 特別二人に用があったわけじゃないんだけど、部屋にエリオとキャロの姿がなかったから心配になって……」

 すまなさそうに、頭を下げるフェイト。どうやら先程までなのはと一緒にエリオ達を探していたらしい。

「それにしても、こんな時間に四人で集まって何してたの? みんなでおしゃべり?」
「ん、えーっと。おしゃべりと言いますか、熱帯夜なんでちょっと皆で怪談話なんかを」

 なのはの問い掛けに、頬を掻きつつ照れたように呟くスバル。
 だが、なぜだろう。怪談と言う単語を聞いた瞬間、なのはの全身が僅かにビクリと揺れたような、そんな気がした。

「んに? なのはさん?」

 僅かに空気の震えを生むその動きに、スバルがなのはの方を見る。するとそこには柔らかい笑みを顔に貼り付けたまま、硬直しているなのはの姿があり、

「そ、そう……怪談、なの」

 紡ぐ声も、若干震えていた。そんななのはの様子に、どうかしたんだろうか、と首を傾げるスバル。
 けれど、疑問が氷解する前に、なのははフェイトの手を握り、そのまま回れ右をするかのように身体を回し、

「じゃ、じゃあ、あんまりみんなの邪魔するのもなんだから、部屋に戻ろうかフェイトちゃん!」

 殊更声を張り上げるなのは。しかし背を向けた彼女に、

「あ、もし宜しかったらフェイトさんとなのはさんもご一緒しませんか?」

 キャロのそんな誘いの声が届いた。
 その声に、なのはは背を向けたまま停止するが、フェイトはどこか嬉しそうに瞳を輝かせ振り返る。

「え、い、いいのかな?」
「はいっ……それに、お恥ずかしいですけど、フェイトさん達が一緒でしたら、その怖い話も、平気かなって思って」
「キャロ……」

 そう言ってはにかむキャロ。そんな彼女の期待の眼差しに、フェイトは瞳に涙を浮かべ感極まっている様子だ。
 保護者として、エリオやキャロに頼られる事は彼女にとってとても喜ばしい事だ。
 些細な事だが、フェイトはキャロ達が自分に甘えてくれる事を単純に嬉しく思う。

「ですよねー。こういうのは人数多い方が楽しいですし! ねっ、なのはさんも是非……あれ? なのはさーん」

 なのは達の参加を嬉しそうに受け入れるスバル。しかし、なのはは未だこちらに背中を向けたままだ。
 そのままなのはは、ギ、という音が連続して入りそうな難い動きで首を巡らせ、

「え、えっと……でも、ホラ。私達が一緒だとじゃまじゃないかなー」
「そ、そんなことないですよ! なのはさんも是非!」
「ですね。思えばこういう機会はあまり無いですし、よかったらなのはさんも」

 やんわりと断ろうとするなのは。しかしエリオとティアナからも引き止められ、続く言葉は静かに飲み込まれることとなる。
 じわり、となのはの額に汗が浮いた。


 ●


 さて、と人数の増えた部屋の様子をティアナはぐるりと見回す。

 丸テーブルを囲むように座る人影は自身を含めて六つ。
 かなり広めに造られているとは言え、スバルとティアナの二人部屋に集まるには少々手狭な空間だ。

 しかし、フェイトは両隣にエリオとキャロを置き、家族三人やたらと幸せそうな笑みを浮かべているし、
 スバルに至ってはもはや言葉にする必要も無いぐらいのテンションだ。

 しかし、唯一気になるのは、

「なのはさん? えっと、その、調子が悪かったりします」

 テーブルを囲む輪から、気持ち引き気味に座るなのはだ。彼女は小さく目立たぬようにと、正座をして肩を狭めているのだが、
 元々存在感のある彼女が身を縮こまらせている様子は逆に目立つ。

 その視線は若干俯き気味、表情もやや青褪めているように見えなくも無い。
 しかし、ティアナの問い掛けには、

「な、なんでもないよ。ホ、ホラ、元気元気、ね、レイジングハート、いけるよね、スターライトブレイカー?」
《all right.》

 いやいや待て待て、そんなトコで元気出してどうする――とは流石にツッコめず、なのは流の場を盛り上げるためのギャグだろうと納得する。
 きっとそうだ。そうに違いない。そうじゃなかったら困る。

 しかし、その反応を見る限り、確かに体調が悪いというわけでは。

 ――となると、考えられるのは。

 首を捻りつつ、ティアナはなのはの方へと近づき、小声で尋ねてみる。

「あの、なのはさん……間違っていたら申し訳ないんですけど、こういう話って苦手だったりします?」

 まさか、と言う思いはある。エースオブエースとして勇名を馳せ、戦技教導官として数多くの局員に戦い方を教えてきた彼女がまさか――と。
 だがしかし、高町なのはエースオブエースや戦技教導官である前に、女の子だった。

「う、うう……な、情けないよね。もうすぐ成人だって言うのに……」

 観念したように俯き、恥じ入るように呟くなのは。やはり人に物を教える立場である以上、こういった部分を部下に見せるのは抵抗がある様子だ。
 しかし、そんななのはをティアナは笑ったりせず、

「なんだか安心しました」
「ふえ?」
「いえ、なのはさんもそういうフツーの部分があるんだなって思って……ほら、私とかから見るとなのはさんてどこか完璧超人っぽい雰囲気がありましたから」

 どこか親近感にも似た思いを覚えるティアナ。彼女の弱点――ではないが普通の部分が見られた事が何故か嬉しく思う。

「それに、安心してください。とりあえずエリオもキャロもそこまで怖い話はしませんし、スバルの語りはなぜか「こうビョーンときて」とか「こう、モニュっとしたのがヌメーンと」とか擬音多くてマジ理解できませんし」

 どうにも感覚や直感で物を話すスバルの怖い話はその恐怖がまったく伝わらないことで有名だ。

「ホント……? コワくない……?」

 そんなティアナの言葉に、瞳に涙を浮かべたまま見上げ、縋るように呟くなのは。
 やけに保護欲をそそる小動物のようななのはの姿に、ティアナは年上の上官に対する評価としては些かどうかと思いつつも、
 カワイイという感想を抱かずに入られなかった。
 思わず頭を撫でそうになっている右手がそこにあった。

 と、そんな彼女達の会話とは別に、話は進行する。

「えーっと、じゃあ、フェイトさん! なにかコワい話してくださいよー」
「え? わ、わたし?」

 スバルの突然の指名に、明らかな狼狽の表情を浮かべるフェイト。
 その声を聞いたティアナも、次は順番的にもスバルの番だと思っていたので僅かに驚く。

 とはいえ――。

「え、無、無理だよ。私、そんなコワイ話とか、ちょっとしか知らないし」

 掌を掲げ、首を横に振るその姿からは、確かに怖い話を嬉々として話イメージは皆無だ。どちらかといえば、彼女の方が怖がる役だろう。
 しかし、

「お願いしますフェイトさん。僕らもあんまり力になれなくて……」

 そう言って両サイドから期待の眼差しを送るエリオとキャロ。そんな二人の期待に応えようと、フェイトはやはり自信なさげではあるが、

「わ、解った。やってみるよ!」

 意を決したように拳を握り、力強く頷く。その答えにギャラリーからは健闘を称えるべく拍手が巻き起こる。
 到底、今から怖い話をするかのようなテンションではないが、まぁそんなものだろう。
 そんな事を思いつつ、フェイトの話が始まった。

「コホン……え、えーっと。じゃあこれは友達に聞いた話なんだけど――」

 フェイトの第一声は、怖い話としてはお約束的なそんな一文から始まった。


 ●


 これは、私の友人から聞いた話なんだけどね。

 そうだね仮にその友人の事をYさんと呼ぶことにするね。
 Yが今から話す恐ろしい体験をしたのは、ほんのつい最近の事で――彼には仲のよい友達がいたんだ。

 その友人――Cから、ある夜、電話が掛かってきたんだ。

『頼む、僕の話を聞いてくれ。このままじゃ僕は死ぬかもしれない』って。

 Cは冗談を言うような性格じゃあなかったし、その声は恐怖に震えていた。
 だから、YはCに落ち着いて、と言い聞かせ、彼の話を聞き始めた。

 ――きっかけは、先週の事だった。

 YとCはその時、友人たちと集まって怪談話をしていたんだ。そう、今の私たちと同じようにね。
 その時に、彼等はひとつの怪談を聞いていたんだ。

 「赤い服を着た女の子」って話。

 それもまたよくある怪談話なんだけど、その話によると赤い服を着た女の子を度々見るようになると死んじゃうって言う、そんな感じの話らしいんだ。
 そして、Cは言うんだ――あの日以来、毎日赤い服を来た女の子を見るんだ、と。

 真剣な声音で呟くCの言葉にYは笑った。落ち着きなよ、街を歩いていればそれぐらい普通に見掛けるさ、気にしすぎてるだけだよ――と。
 けれどCの声はやっぱり酷く震えを感じさせるもののままだった。

『じゃあ、なんであの子はじっと僕の事を見てるんだ?』

 ――冗談を言うような友人ではなかった。真面目なのが取り柄で、この怪談話を聞いたときも鼻で笑っていた。

 そんなCが今は誰よりも恐れ慄いていた。
 そして、

『なんで、今僕の目の前に、赤い服を来た女の子がいるんだ?』

 ぶつり、と通話が突然切れた。

 リダイヤルしても、Cが再び電話を取る事は無かった。
 Cが死んだという事をYが知ったのは翌日のことだった。

 扉や窓に鍵をかけただけではなく、部屋に閉じこもるかのように内側からバリケードを組んだ状態の部屋の中でCは見つかったんだ。虫一匹出入できるような隙間の無い密室――結局、彼の死は自殺と言うことになった。

 けど、不思議なことにその死因は全身から真っ赤な血を噴出した、失血死だったそうだよ。

 ――その時になって、Yはようやく思い出した。

 彼等が「赤い服を着た少女」の話を聞いた時に、その対処法もキチンと話されていた事を。
 けれどCは笑ってその話を聞き流していた。

 もし彼がその時、きちんと話の内容を覚えていたら? もし、僕がその事を、Cに教えてあげていたら?
 もしかしたら、Cは死なずにすんだんじゃないだろうか。

 ――私にその話をしてくれたYはそのまま俯いて、肩を震わせた。

 友人を殺してしまったと、そんな罪悪感に震えているのかと思った。
 けど、そうじゃなかった。

 Yは、笑っていた。肩を震わせて、くつくつと笑みを溢して。
 そして、彼はこう言ったんだ。

「この話を聞かせたのは、君で五人目だ――」

 そうして、Yは恐怖に表情を歪めた笑顔のまま、こちらに振り向いて。

「――これで、もう僕には赤い服を着た女の子は見えないよね?」


 ●


 五人の聴衆が居る部屋は今、沈黙が支配していた。

 悲鳴をあげるでもなく、誰かにすがるように怯えるでもなく、フェイトの話を聞き終えた皆は、
 じわりと周囲に漂う嫌な空気を一身に浴びつつ、ただ無言を貫いていた。
 通夜のような雰囲気とはよく比喩として用いられるが、今のこの状況がまさにそれだろう。

 唯一違う反応を見せているのはなのはで、彼女は部屋の隅で縮こまり、自分の両耳を掌で叩きつつ
 「あー、聞こえないー。聞こえてないなのー」と現実逃避していた。

 しかし、そんなエースオブエースの姿にさえ、誰一人としてツッコミをいれず、ただ俯き気味に押し黙る。
 フェイトの話を期待に満ちた眼差しで見詰めていたエリオやキャロとてそれは同様。

 そんなみんなの反応にようやく気付いたフェイトは、あれ? と首を傾げ。

「え、あ、あれ? だ、ダメだった? コワくなかった?」

 慌てた様子で周囲を見回し、泣きそうな声で呟くフェイト。
 しかし泣きそうなのはそれ以外の聴衆だった。というかフツーにコワい話だった。

 微妙に後味が悪いオチなのも、イヤな雰囲気を呼ぶ一因となってしまっている。
 誰もが思っていた――間違っていた、と。コワい話なんかするんじゃなかったと。
 フェイトに悪気はない。ただ彼女はそう、どんなことにも一生懸命なだけなのだ。

「う、うえーん。ティアァ……私、とっておきの怖い話があるんだけど、聞いてよぉー!」
 まず反応として、ティアナに泣きつくスバルがいた。

「ア、アンタずるいわよ! てーか普通この話し聞いたメンバーはノルマに入らないでしょう!」
 意外と論理的な事を言ってるが、やはり若干パニくった様子のティアナ。

「ちょ、ちょっと皆さん落ち着きましょう! ほ、ほら、つ、作り話ですよねフェイトさん、ね、キャロ……キャロ?」
 若干震え気味の声ながらも、取り乱すまいと努めるエリオ。しかし窺った視線の先では、

「…………きゅう」
 妙な鳴き声を発して、キャロがその場に倒れこんだ。

「きゃあ、キャロ!? ご、ごめんね。私が怖い話ヘタだったから、ごめんね!」
 未だ勘違いしているフェイト、

「ねぇ、大丈夫?」
 更にはそんな声が響き、

「だ、大丈夫じゃないなのー!」
 最後に、なのはの恐怖度がマックス突き抜けたのか、彼女が大声でそう叫んだところで――、

「うるせぇー! 今何時だと思ってんだテメェラ!!」
 部屋の扉を蹴破るようにして、赤いパジャマを着た少女ヴィータが現れた。

 彼女達はその姿を一瞬だけ視界に写した後、ひ、と声を詰まらせ、
 大地を揺るがすかのような悲鳴が、機動六課の一室から響き渡った。

 ●

「いいか、待機時間中に遊ぶなって言ってるわけじゃねえ。けどなぁ寮生活なんだから、もっと節度を持て、節度を!」
『は、はい。すみませんでしたぁ』

 ――そんなわけで、ヴィータの説教タイムが始まっていた。
 ようやく落ち着きを取り戻した面々はスバル部屋の中で横一列で正座させられており、皆一様に、しゅんと項垂れたまま謝罪の言葉を紡ぐ。

「つーか、おまえらだおまえら。なんでテメェラが一緒になって騒いでんだよ。どっちかってーとこっちの立場だろうが」

 と、矛先を端に並んで座るなのはとフェイトへと差し向けるヴィータ。
 ちなみに立場的に正座している方が上司である。

「ご、ごめんねヴィータちゃん」
「え、えっとね、ヴィータ。なのはは悪くないんだよ。その私が――」
「ええい、言い訳無用! てーかおまえら怪談でビビるってなんだよ。ホンット情けねえなぁ……」

 額を抑え、やれやれといった感じで大きな溜息をつくヴィータ。
 だが、呆れた表情で周囲を見回していた彼女は、ふとある人物のところで視点を止めた。

「ん? どーした、スバル?」

 正座のまま、やや顔を俯かせたまま、静かに挙手をするスバルの姿がそこにあった。
 ヴィータの声に、彼女は心なしか青褪めた顔を持ち上げ、若干震える声で、

「あ、あの、つかぬ事をお伺いするんですけど、ヴィータ副隊長。この部屋に入ってくる直前、「大丈夫?」とか尋ねられました?」
「あ? 何言ってるんだ?」

 どうにも用量の得ない言葉に、首を傾げるヴィータ。
 しかし、その会話に周囲にいた者たちが、ざわめき始める。

「え……あれ、フェイトちゃんじゃ……?」
「ふえ? ち、違うよ? キャロじゃないの?」
「わ、私はその時気絶してたんですけど……」
「あ、僕も聞きましたけど、アレってティアナさんじゃ」
「私そんな事言ってないわよ……ス、スバル!?」
「え、ええ!? だ、だから私じゃないってば!」

 順々に視点が回っていき、そして最終的に皆の視線を一身に浴びることになったのは――

「な、なんだよオマエラ。全然話が解んないんだけどよ……」

 六対の瞳に見詰められ、流石にたじろくヴィータ。
 けれど、彼女達の視線をよくよく追ってみれば、それはヴィータ自身ではなく彼女の右肩辺り――本来ならば、誰もいないはずの空間へと向けられており、

 ガシッ、とヴィータは己の右肩を誰かに掴まれた。

「ねぇ、私も混ぜてよ」

 次の瞬間、大地を揺るがすような悲鳴が、再び機動六課に木霊した。



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