魔法少女リリカルなのは 星を砕く者 第8話 ストライカーズ




 かつて、聞いたことがある。


 ストライカーという言葉の持つ意味。



 どんな困難な状況だとしても


 どれほど救いのない状況だとしても


 それらを打ち崩し、乗り越える――そう信頼することのできる存在。



 それは自ら名乗るものじゃない、その行いを見た誰かから与えられるものだ。



 だから、打ち崩してみせる。



 ストライカーだからではない。


 ただ、与えられたその信頼に応える為に、乗り越えてみせる。



 星を砕く物語、はじまります。



 ●



「ユニゾンデバイスはインテリジェント・ストレージの両デバイスと比べ驚くほど高性能だ。単独での魔法行使、それに加え魔導師とユニゾンすることによりその魔力量は驚くほど跳ね上がり、それに加えインテリジェントデバイスをしのぐ高度な魔力制御を行うことさえ可能だ。しかし現在、ユニゾンデバイスは一般的ではない。いや、一部の例外を除き、その存在を抹消されているといっても過言ではない。ならばその理由は何故か解るかね?」
 今度はまるで講釈を続ける教授か何かのようにそう言ってスカリエッティは周囲を見渡す。
 視線は背後、もう口を挟むまいと心に決めていたティアナに向けられていた。
 その金色の瞳に見据えられ、思わず身体が硬直するが口からはほぼ自動的に模範的な回答が紡がれる。
「そ、それは……ユニゾンデバイスには使用者に適正が必要になるから……」
 答えを得ることが出来、それで満足したのかスカリエッティは一度軽く頷くと再び視線を正面へと戻す。
 ティアナからしてみれば何がなんだかわからないとしか言いようが無い挙動である。
「その通り、ではここで問題となるのが、では適性が無ければ融合した際にどうなってしまうかだ」
 今度はスカリエッティも周囲を見渡すことは無く、誰も口を開こうとはしない。
 なぜなら一般的に広まっている情報はそこで終了しているからだ。
 ユニゾンデバイスは使用者との適正が必要である為に汎用的ではない、ゆえにその開発は断念することとなった。
 それが多くの人間の知る、嘘の無い事実だろう。
 しかし一部の者は知っている。語られるべきではない真実を。
 デバイス開発史に残された暗黒時代。それを知るのはデバイス開発に関わる者か上級将校、もしくは実際にその身を持ってユニゾンデバイスの暗闇を垣間見た者だけだろう。
「融合事故……」
 そしてその身を持って体験した者である八神はやてが、このままでは話が進まないと感じたのか、至極嫌そうな口調でそう呟いた。
「そのとおり、ユニゾンに失敗した場合。使用者の人格はデバイス側のものへと引き擦り込まれる。すなわち精神の死だ。そのようなリスクの高い掛けに乗るような真似、普通の人間ならば唾棄すべき物だろうな……そう、普通の人間なら」
 そう、おかしそうに呟くスカリエッティ。自分がその普通の人間ではないとまるで言外に主張するかのように。
「ならばこう考えればいい。精神の死? なるほど重大な問題だ。しかし、だからどうだというのだね。精神など磨り潰せばいい、それで強大な力を持つ戦士を得られるというのならば、釣りの来る話ではないかね?」
 得られた回答は、あまりにもあっけなく、無慈悲なものであった。
「じゃあ……あの人たちは」
 間近でその異形と対峙したスバルが慄くかのように呟く。
「そうだ、あれは人間という皮を被ったユニゾンデバイスそのものだよ。まぁ、もはや人間の形は留めていないだろうがね」
 どこまでも嘲るようにスカリエッティは囁いた。
「もちろん、計画としては融合事故を起こさせるだけではあまりにも不完全だ。ゆえに融合の際にユニゾンデバイス側のストレージにはありとあらゆる情報を詰め込んでおく。実際に実用段階まで漕ぎ着けたのは管理局だ、それらのデータを入手するのは容易だったことだろう。例えば優秀な管理局員……エースと呼ばれる人種の魔法術式や戦闘データなどをね」
 実際にフェイスと戦闘を交わしたスバルとはやての表情が変わった。
 スバルと対峙したラフティは、“巨大な剣”を振りかざしこちらに襲い掛かってきた。
 はやてたちのいる地上本部に最後の止めを刺したのはエンジョイの“収束魔力砲”。
 ただの偶然とその時は思っていた。
 重ね合わせるにはあまりにも情報が希薄すぎた。
「つまるところ、至極簡単に歴戦の勇士程のレベルを持つ優秀な兵士を作製する便利な技術だよ。なにしろ代価が被験者の命一つだけでいい。これほど都合の良い素材はなかなか無いと思うのだがね」
「一つ、聞かせてもろうてええか?」
 冷淡な、あまりにも冷淡すぎる口調ではやてが尋ねた。
「なにかね?」
「プロジェクトSD……後の経緯はどうあれ考え付いたのはアンタやったな……どうやってそれを閃いた。お得意のその脳味噌で天啓が閃いたとか言うつもりか?」
 問いかけられた言葉に、スカリエッティは肩を竦め、自嘲するように微笑んだ。
「残念ながら何も無いところからこんな荒唐無稽な事を考える程、私は多才ではないよ……なに、少々面白い事件の資料を手に入れてね、それを見て考え付いただけだ」
 そう言ってスカリエッティはまるで恍けるように天井を見上げ、誰が見ても明らかに考える“フリ”を数秒行った後、まるで今思い出したかのように呟いた。
「ああ、そうだ、そうだったな! 確かアレはこう呼ばれていた筈だ……【闇の書事件】と、ははっ、面白い事件だった。アレが無ければユニゾンデバイスの有効利用など私でも思いつかなかった。ああ、とても愉快な喜劇だったよ、はっはっはっはっ!!」
 心の底からおかしそうに膝を折り、笑うスカリエッティ。
 瞬間、周囲から一気に殺気が膨れ上がった。
 見られただけで心臓の鼓動が止まるかのような冷徹な殺気。その対象ではないスバルたちでさえ怖気が背中を這い回り、意識を刈り取られそうになる。
 シグナムとヴィータだった。
 彼女達は今までスバルたちが見た事もない烈火の如き怒りの表情でスカリエッティを睨み据えている。
 この瞬間、斬りかかっていないのが不思議とさえ思えた。
 いや、おそらく彼女達は躊躇も後悔も無くスカリエッティに自分の持てる最大の一撃を喰らわせていただろう……己の主がその手を掲げ、押し留めなければ。
 スカリエッティを見詰めるはやての佇まいは恐ろしいまでに平然としている。
 しかし、その視線だけはシグナムたちと同じくこらえようも無い怒りを秘めていた。
「アンタは、骨の髄まで腐っとるな」
「よく言われるよ、まったくもって心外だがね」
 直接の対象でないスバルたちでさえ、額から流れる冷や汗を止めることは出来ず、指一本まともに動かせない状況だというのに、その殺気を受けたままスカリエッティは平然と軽口で答える。
 世界を変えようとしたその胆力は並大抵の物ではないということか。
 はやての手がスカリエッティから離れる、怒りは消えぬまでもその激しさを少しづつ弱めていた。
「すまんな、話を逸らしてもうて。続きを聞かせてもらおうか」
「とはいえね。先程から言っている通り私はあくまで代案者でしかない。実際にこのプロジェクトがどのような経緯で動いているのか、そして実際に何処まで辿り付いたのか――そこまでは流石に解らんよ。実際に関わってきた者達を問い詰めた方が早いのではないかね?」
 乱れた服を適当に直しながらもスカリエッティはやはり平然と呟く。
「残念ながら、君の名前を見つけた書類に書いてあった担当顧問シュビム博士は数年前から行方不明、プロジェクト責任者であるヴォルックス准将は地上本部襲撃事件の際に殉職された……他の研究員の名前もいくつか解ったがそれらは全て死亡、もしくは行方不明とされている」
「なるほど、お得意の隠蔽工作というわけか。まったく徹底しているね。監獄の中でなければ私も消されていたかもしれんよ、怖いものだね」
 クロノの説明に肩を竦ませ呟くスカリエッティ。勿論本心でそんなことは微塵も考えていないだろう。
「ひとつ……聞いておきたいことがある」
 そんな彼に割って入りシグナムが声をあげる。まだ怒りは収まっていないのか声に棘は感じられるが殺気は既に収まっていた。
「なにかね、どうすれば私を後顧の憂い無く殺せるかかね? それならば喜んで相談に応じるが?」
 だというのに、また神経を逆撫でするかのような物言いを続けるスカリエッティ。
 そんな彼の言動が逆にシグナムに冷静さを呼び戻した。相手の都合のいいように動かされ続けるようでは一介の将など勤まりはしない。
 シグナムはスカリエッティの発言を無視したまま、疑問に思ったことをそのまま口にした。
「……貴様の言うとおりに融合騎を暴走させたとして、その後、人格はどうなる。ユニゾンデバイスのものになるのか?」
「それは私がわざわざ言うことかね。君のほうがユニゾンデバイスについて、より理解していると思うが?」
「答えろ」
 問答は一切不要とでも言うかのように斬って捨てるシグナム。スカリエッティは「嫌われたものだね」とこれ見よがしに首を振りながらも律儀に答えを返す。
「融合事故が起こった場合、その肉体はユニゾンデバイスが主導権を握ることになるだろう。しかし人格といったものは全てなくなるだろうね。先程も言ったがこのプロジェクトの目的は便利な兵士を作製するための物だ。余計な知恵や人格など無駄以外の何物でもない。恐らくユニゾンデバイスにはこちらの指令を受け入れやすくさせる為に元から人格など積み込んではいないだろう。結果できるのは完璧な人形だ――これで満足かね?」
 わざわざ話すことでもないだろう、とでも言うかのように先程の芝居がかった語り口調とは裏腹に必要な情報だけを一息で告げるスカリエッティ。
 しかし、そうではない。少なくとも“あの男”と対峙したシグナムやはやてにとってはそれは当然ではない情報なのだ。
「敵の魔導師の中に、明らかに自らの意思を持った者がいた。それも貴様の言うとおり融合機とのユニゾンをした状態の者がだ」
 シグナムから与えられたその情報にスカリエッティはここに来て始めて剣呑な表情を浮かべた。いや、真剣な表情といった方が正しいか。
 何かを思案するように口を噤み、ただ天井を見上げる。
 その沈黙が数秒続いた後、
「それは間違いのない情報かね?」
「我々の方が、貴様よりもユニゾンデバイスについては良く知っている……そうなのだろう?」
 確認するかのようなスカリエッティの言葉に即座に答えるシグナム。しかしスカリエッティはそんな皮肉交じりの言葉などどうでもいいのか、やはり暫くの間思案に耽っていたかと思うと、
「ふん、忌々しい……」
 感情を吐露するかのように呟いた。その言葉も今までの言葉とは違い感情の篭った一言だ。
 何が彼をそうさせたのかは誰にもわからない。
 しかしスカリエッティが正面を向くと。彼はいつもの如く道化のように振舞い始めた。
「そいつは恐らく、ユニゾンデバイスを喰ったのだろう」
「ユニゾンデバイスを……喰う?」
 耳慣れない言葉に鸚鵡返しに尋ねるシグナム。
「簡単なことだ、つまりは逆なんだよ。暴走事故が起こった際にユニゾンデバイスではなく宿主の方が主導権を得たんだ。理論上は可能だ、向こうが支配権を得るのだから逆が起こっても不思議ではない」
「しかし、そんなことは……」
「ああ、あくまで机上の空論だろうよ。人間のソフトウェアはそれほど頑丈に出来ていない。中身同士の争いならどう考えても勝利するのはユニゾンデバイスだろう。人と機械が単純な計算で争うようなものだ。しかし可能性が無いわけではない、不可能と断じてもいいほどの確率ではあるがね」
 奇跡と呼んでも差し支えないほどのね――忌々しげにそう呟くスカリエッティ。
「そうなると、宿主はどうなる?」
「……プロジェクトとしてみた場合、それほどたいしたことは起きないよ。ただ人格が残るか否かと言った程度だろう魔力量や制御能力について言えば通常のフェイスたちとそれほど変わらない筈だ。ただ唯一特筆するべき点といえば――恐らく、その人物はありとあらゆるユニゾンデバイスの支配権を得ることになるだろう」
 はやてとシグナムの脳裏に、いまだに本局の医務室で眠りについたままのリインとアギトの姿が浮かんだ。
「どういうことなんや? ちょっと詳しく説明してもらおうか」
「言葉どおりの意味だよ。彼か彼女かは知らないが、そいつはユニゾンデバイスとの生存競争に打ち勝ったんだ。自分の身に思い通りに動くユニゾンデバイスを取り込んでね。ならば後はそれが命じるだけで彼の身体と融合したデバイスは彼の意のままに動く筈だ。それだけじゃあない、その支配権は恐らく外部にも及ぶ、絶対的な勝利者としてユニゾンデバイスの上を往く者になるんだ。自分の配下であるユニゾンデバイスを通して命令を送ればよほど優秀なデバイスでなければその意のままに操られることになるだろうな」
 戦闘の最中、突然苦しみだしたリインとアギト。おそらくアレはフェイスレスが彼女達を支配しようとその力を使用した結果なのだろう。
 リインとアギトはその支配に必死で抵抗していた。
 だが、恐らくそれは相当な苦痛をもたらす反抗だったのだろう。だから、彼女達は戦えなくなった。
 それでも自分の主を守るために。
「あの子ら……」
 悔しそうにはやての呟きがもれる。シグナムも同様の思いなのだろう、その握られた拳は力強く握り締められていた。
「……ふん、まぁ役割的にはリーダーとなるだろうな、何しろ配下である暴走したユニゾンデバイスですら手なづけることが出来る。組織立った行動をとるのも不可能ではないということか……それにしても管理局の凡人がそれに成功するとはな、世も末だね」
 どことなく不愉快そうに呟くスカリエッティ、鼻を鳴らすように息をつくと彼はやはり堂々たる振る舞いではやての方へと顔を向ける。
「気が変わった。契約の内容を変更したい」
「……冗談いいなや、そっちのカードはもう切っとるのに契約内容を変えることは出来へん」
 スカリエッティの言葉に不審そうに眉を顰めるはやて。
 例えどのような内容であろうとも、今このタイミングでその提案を受諾できるはずが無い。
 しかし、それもスカリエッティの想定していた流れなのか、淀むことなくスカリエッティは言葉を続ける。
「では、新しい契約を交わそうではないか。OMFの対応策、そしてフェイスたちの弱点を教えよう。私の関わった計画の内容を教えるとは言ったがそこまでは契約に含まれていなかったはずだが?」
 その言葉にはやての表情が苦虫を噛み潰したようなものになる。
 失敗した、と思う。スカリエッティがOMFへの対応策を先延ばしにした時点で気づくべきだったのだ。
 おそらく現時点での情報があれば今スカリエッティの述べた内容は調べることが可能だろう。
 しかし、どうしても掛かってしまうものがある。時間だ。
 そして、それは四十八時間という制約をもった彼女達からしてみれば最も重要なものである。
 もちろん、スカリエッティに対してこの情報は与えてないが、管理局の助力がないというこの現状から推測することは可能だ。
 完全に足元を掬われた形になってしまったことにはやては歯噛みする。
「そっちの条件はなんや、言っとくけど先刻と同様、対した事は出来へんで」
 結局、再び交渉のテーブルに着くことしか彼女には出来なかった。
 その返答にスカリエッティは至極満足そうに頷き、揚々とその“条件”を語った。
「なに、それほど難しいことではない。私を連れて行け。行くんだろう、第六十六管理外世界へ」
 思いもよらぬ――と、言うほどではない。先程の彼の反応からしてみれば予測できた内容である。
 だが、その場にいる誰もが本当にそんな内容を提示するとは思わなかった。
「正気か、アンタには何のメリットも無い話やで。確かに出来へん事もない。でもそうなったとしてもアンタのありとあらゆる行動は制限されることになる。アンタが何を企んどるかは知らんけど、その目的を達成できるとは思えへんねんけどな」
「では何の問題もないではないかね。君たちにしてみればそのほうが都合が良いのだろう」
 はやてが黙り込む、いま自分の目の前にいる相手が何を考えているのか完全に理解の範疇を超えているからだ。
 何が目的なのか、それがまったく解らない。
 しかし、結局のところ。出せる答えは一つしかなかった。
「ええやろ、その条件を飲もう」
「よろしい、ではこんどこそ契約成立だ、よろしく頼むよ諸君」
 そう言って周囲を見渡すスカリエッティ、当然のように喜色を浮かべる者など皆無であった。
「さて、では何から話そうかね。こんどこそ何でも話すが?」
「それは後にしてもらおうか、残念なことに私等には時間が無い」
 そう言ってはやてはスカリエッティを押しのけ、その背後に並ぶスバルたちの前に進み出る。
「そういうわけで、重荷を背負わせてまうことになってもうたけど……すまんな」
 申し訳なさそうに呟くはやて、確かに彼女達に浮かぶ表情はなんともいえない複雑なものになってはいたが、
「大丈夫です、私たちのやることに変わりはありません。きっとフェイトさんは助けてみせます」
 それらの感情を払拭するようにティアナが代表して語る、まだ戸惑いは残るものの目指すものに迷いは無い。
 他の三人も同様だった。自分達のすべきことは唯一つ、大事な者を守るために戦う。その思いだけは誰もが確かに持っていた。


「ではこれより特別救助分隊ストライカーを結成する。ストライカー01、ティアナ・ランスター執務官補佐!」


 告げられたそのナンバーにティアナの目が大きく開く。
「わ、私がチームリーダーですか?」
「ん? なにか反対意見があるか?」
 周囲を見渡しながらはやてが答える。
 エリオにキャロ、そしてスバル。全員が納得のいく表情でティアナのほうを見詰めていた。
 それらを見回しながら、それでもティアナだけが本当に自分でいいのかという表情を浮かべている。
「今、この子達を纏められるのはティアナだけや、臨時とはいえ色々な責任を負うことにもなるやろ、それでも、いや、だからこそティアナにしか頼めへんと思っとる」
 だが、告げられたはやての言葉にティアナの瞳に力が宿る。
 誰かが、いや、自分が勤めなければならないポジションなのだと改めて認識した彼女は見事な敬礼と共に返答を告げる。
「了解しました。ストライカー01拝命いたします!」
 満足げな表情で返礼を送ったはやては、そのまま隣に居るスバルへと視線を移す。


「ストライカー02、スバル・ナカジマ一等陸士」


「はいっ!」
 迷い無い声で答えるスバル。そんな彼女の姿を眩しそうに眺めながらはやては言葉を紡ぐ。
「スバルの役割はみんなの盾になることや。おそらく誰よりも辛くて大変な役割になると思う……」
「大丈夫です、それは私に与えられた役割じゃなくて、私の望んだものですから」
 その言葉に込められたものは、確かな意思の力だった。
 その言葉に、はやては安堵したように頷く。そして再び視線を移した。


「ストライカー03、エリオ・モンディアル二等陸士」


「はい」
 放たれる声には確かに力はある、だが……、
「この状況、一番納得いかんのはエリオやろうね。すまんなぁ不甲斐ない部隊長さんで」
 軽く頭を下げるはやて。エリオはその対応に慌てるものの、その心情は確かにはやての言うとおりだった。
 行方不明のフェイト、そしてジェイル・スカリエッティの存在。
 彼にとって変え難い大切な存在である者は居らず、彼にとって許しがたい存在である者が共にいるという事実。
 その心中は穏やかなものとはけして言えない。だが、
「安心してください、これから全部取り返しに行きます。僕の大事な思いや理想ごと、だから……任せてください」
 今の状況が最悪だというならば、這い上がればいいだけの話。
 折れるような心など、エリオは持ち合わせていなかった。
 その様子に安堵にも似た感慨を抱きながら、はやては最後の一人と視線を合わせた。


「ストライカー04、キャロ・ル・ルシエ」


「はい」
 叫びではなく、穏やかな返答。しかしその内側に込められた力強さは何者よりも確固たる意思を持っている。
「今回の作戦、キャロの力は一番重要になってくる。目の前の壁を打ち壊す力やなくて戦う仲間を助ける力。管理局の支援を受けられへん状況では何よりも大切な力や……本当にごめんな、私達が頼りないからキャロにも大変な目に合わせてもうとる」
 管理局だけではない、彼女達が第六十六管理外世界へと赴けばはやてもその作戦を援護することは出来ない。
 改めてこのような幼い者達に全てを押し付けなければならない自分の弱さを痛感し、はやては歯噛みする。
「そんなことないです。たぶんはやてさんたちが動いてくれなくちゃ、私たちだって何も出来ませんでした。こうして私たちを呼んでくれたからフェイトさんを助けにいける。それだけで今の私たちには十分です」
 しかし、攻めるでもなく、逆に感謝の言葉を送るキャロ。
 返す言葉は無かった。はやてはただ感謝の意だけを込めてその頭を軽く撫でる。
 そして、改めて四人に向き直った。


「以上がストライカー分隊のメンバーとなる。作戦目的は四十八時間以内にフェイト・T・ハラオウン執務官を救出すること、諸君等の健闘を祈る!」


 四人はそれぞれに敬礼を送る。ここにけして誰にも称えられることは無い特別救助分隊ストライカーが結成された。





>TO BE CONTINUED


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