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お題SS第2回
スバルとティアナ : お古のスカート
「お古のスカート?」 執筆:コン
それは退屈な事務仕事中の話。手元の書類が一段落ついて何の気なしに視線を巡らせたティアナは、無意識の内にスバルの姿を探していた。
お目当ての青髪頭はすぐに見つかる。
「はわ〜……」
なんか、仕事さぼって携帯電話の画面に見入っていた。
「仕事中は仕事しなさいっ!」
すぱんっという軽快な打撃音が響き渡り、後頭部に衝撃を受けたスバルの額は携帯電話に突っ込んだ。
ティアナの呆れた溜め息が漏れる。
「まったく。さぼってて終わらせられる量じゃないのに、なにやってんのよ。後で泣きつかれても手伝わないわよ」
手厳しい忠告はスバルの耳に届いたのかどうか。「だって」と反論したげにティアナを見上げていることから察するに届きはしたが頭に弾かれたかもしれない。
なので、額をでこぴんで弾いておいた。
「わきゅん!?」
「仕事、仕事をするの。ユーアー仕事タイム。オーケー?」
「で、でも!」
ばちん!
二度目のでこぴんが赤くなったスバルの額を打った。
「ティアの鬼! 行かず後家! ううん、ティアは私がお嫁さんにもらうんだ!」
ばちん! げしげしがすがすめきゃ、ばきん。
ティアナさんの容赦ないコンボが炸裂した。
そこには照れ隠しが含まれており、含んだ分、威力は七割増しだった。
「……そ、そろそろ理由を聞いてくださると嬉しいです」
腕をぷらんぷらんさせながら懇願するスバル。泣きが入ったその姿は情けないことこの上なかったが、お仕事時間のティアナさんが基本的にツンツンしてデレないため仕方なかった。
「はあ……。で、どうしたの?」
それでも、人の良さと貧乏くじの引きっぷりに定評のあるティアナである。しぶしぶ折れてスバルに発言を促した。
途端、お預けを解除された子犬のように輝いた笑顔を見せる
「わきゅーん! えへへ、見て見てー」
嬉しそうに携帯の画面を見せてくる。ティアナのものと色違いの携帯電話には画像が表示されていた。服だ。
そこには、雪のように白く修道着のように裾長の服が映っていた。
儀式に用いられるドレスの一種である。
「お父さんが変なしまいかたしちゃってねー。修理に出してたのが戻ってきたんだ」
流石のティアナも魅入ってしまうその服は、一般的にウェディングドレスと呼ばれるものだった。
「お母さんのなんだよー。まあ、私が着ることはないんだけどね」
ふと。言葉がティアナの口を突いて自然と零れる。
それは――彼女が意外と乙女だからだろう。
「どうして着ないって言い切れるのよ?」
ティアナにとって自然な問い。
それにスバルに悩まずあっけらかんと答えた。
「だって、私はティアをお嫁さんにもらうんだから、結婚式にはタキシードを着るんだよ?」
タイムラグがまったく存在しない、淀みない切り返し。言った当人が本気でそう思っている、その証明。
言われたティアナは僅かに頬を朱に染めしばしスバルを凝視するが、ぴーかん少女から謀りの色なんて見つかるはずがなかった。
「……はあ」
結果、恥ずかしいくらい妙に熱い溜め息が漏れる。ティアナの完全敗北だった。だから――しばらくの間、切り出し辛さをごまかすように頬を掻いた後――言った。
「じゃあ、そのウェディングドレスを私が着てもいいかしら……?」
にぱっと太陽のような笑みを見せるスバル。
それあてられると「こいつには敵わないわよね、ほんと」と思うティアナなのであった。
――なお、就業時間を過ぎても終わらなかったスバルの書類仕事をぶつくさ言いながら手伝うティアナの姿があったとか。なかったとか。
●
感想などは 『魂の奥底から叫んでみよう!』 へどうぞー
「貴女に贈るもの」 執筆:緑平和
「なんなのよ、これは……」
軽い自主トレを終えて、部屋へ戻ってきたティアナは目の前に広がる光景に絶句していた。
部屋が散らかっている。それも筆舌にしがたいほど。
ほんの一時間ほど前まではいつもと変わらぬ光景だったというのに、今は足の踏み場を見つけるのにも苦労するくらいに床にものが溢れてしまっている。
そんな惨状に呆然としていると部屋の中心付近から能天気な声が掛かってきた。
「あ、おかえりティアー。ごめんね、散らかってて」
「ごめんねって……なんなのこの尋常じゃない散らかりようは」
声の主は当然、ティアナのルームメイトであるスバルだ。
普段ならば怒声の一つも飛ばしたくなるような状況だが、予想を遥かに超える光景に、怒りよりも前に呆れの言葉が出る。
「実家から色々と送ってきてさー、今整理してるとこ。もう、こんなに送ってきても使う機会あんまりないって言うのに……」
スバルの呟きに合わせるように、ティアナが視線を落とすと、確かに床にあるのは日用品の類ばかりだ。
それも散らかっているのではなく、整理する為に並べ立てている様子だ。
だが、確かに機動六課での生活ではあまり必要性はないものが多い。
なにしろあの部隊長が一から設計した隊舎だ。日常生活に必要なものは施設内で全て賄えるようになっている。
それでも、口では文句を言いつつ持ち物を整理するスバルはどこか嬉しそうである。
「うわっ、なつかしー。これ昔ギン姉が着てたやつだ」
手に持った服を広げ、楽しげに呟くスバル。
その眼差しは服そのものではなく、そこに籠められた思い出を見つめているかのようだ。
そんなスバルの姿を見てると、ふいに胸の辺りが痛くなった。
ティアナには、スバルのように思い出の品を送ってきてくれる間柄の者は……もういない。
それは、既に過ぎ去った過去の出来事だ。
ティアナもそのこと自体については踏ん切りはついている。
けれども、気持ちが僅かに沈んでいることはティアナにも解った。
気付けば、彼女は洋服を広げるスバルから視線を外してしまっていた。
「どうでもいいけどっ、さっさと片付けちゃいなさいよね、邪魔なんだから!」
そう言って、荷物の合間を縫うように自分のベッドへと向かう。
さすがに、そこまで散らかってはいない様子だ。
「えー、ティアも手伝ってよー」
「なんで、私がアンタの荷物片付けるの手伝わなきゃいけないのよ!」
今日はこのまま寝てしまおうと、すぐ横になる。
スバルの言葉に、語気が強まってしまったのは感じたが、それももうどうでもいい。
「えー、でもティアの分もあるんだからさー」
だが、唐突なその言葉に、ティアナの動きが止まる。
「…………え?」
「だから、ホラッ、ティアナの分! こっちも整理しないと片付かないよー」
「いや、だから何を言ってるの?」
身体を起こして不思議そうに尋ねるティアナ。
そんな彼女に、スバルは未だに未開封のダンボールを突きつける。
そこには「ティアさんへ」の文字が踊る手紙が付いていた。
「なに……これ?」
「何って、ティアの分に決まってるじゃない」
不思議そうに尋ねるティアナにスバルも何を言っているのかと言わんばかりに答えを返す。
しかし、まるで要領を得ない。
結局、訳のわからぬままティアナは手紙を手にとってみる。
見れば裏側には送り主の名前が書かれている――ギンガ・ナカジマと。
封を切り、続いて文面を読み上げてみる。
そこにはお下がりで申し訳ないが適当に見繕った品を送ります。気に入らなかったら捨ててもらっても構いませんといった旨の文が並べ立てられていた。
だが、その手紙を最後まで読んでもどうにも意味が解らない。
なぜ、ギンガが自分にこのようなものを送ってきたのか、その理由さえ解らないのだ。
「ねーねー、開けてみようよ、ティアー」
「え? あ……うん」
手紙を見つめたまま、ボーッとしていたティアナはスバルの言葉に我に代える。
そうして、彼女の言葉どおりダンボール箱を開封すると、中には文面どおり洋服が綺麗に畳まれ詰まっていた。
どれもきちんと手入れされており、新品と見紛うほどのものばかりだ。
「うわー、可愛いー。あっ、これギン姉のお気に入りのやつだー。うわっ、私にはジャージとかばっかり送ってくるのに……」
その内訳を見て、スバルが羨ましそうに声を上げる。
しかし、ティアナ自身はどうにも現実感が湧かないというか、いまだに何故こんな状況になっているのかがいまいち解らない。
「なんで……、なんでこんな……」
「へ? あれ? ティアやだった?」
「ヤなわけないでしょ!!」
気付けば、ティアナは両の瞳からぽろぽろと涙を零しながら叫んでいた。
自分でもなぜこんな気持ちになるのか解らなかった。
それでも、悲しいような嬉しいようなそんな気持ちが溢れて止まらない。
暫くの間、スバルはそんなティアナの姿を眺めた後、ポツリと呟く。
「別に、ギン姉は特別な理由なんて持ってないと思うよ。送りたいから、送ってきたんじゃないかな? だから、ティアも気にすることないよ」
「でも、私は……」
「他人だからとかじゃなくて、ティアは大切な人なんだよ。ギン姉にとっても、私にとっても」
言われ、気付く。スバルもまた血の繋がりのない家族であるという事を。
それでも、それでも大切なものであるということは変わらない。
家族ではないのかもしれない。
それでも、ティアナは自分も彼女たちの大切な存在と認められていることがとても嬉しく思えた。
「あり……がとう」
誰に告げるでもなく、ティアナはそう呟くと、大切に詰められた衣服を手に取った。
●余談
「あ、ねーティア。ちょっと着てみてよー」
楽しそうに呟くスバル。ティアナの手にはちょうど取り出したばかりのスカートがあった。
「い、いいのかな……」
「いいにきまってるじゃん。ほらほら!」
遠慮がちに呟くティアナをスバルは薦める。早く彼女が着てる姿を見てみたいのだろう。
「解った、解ったからそんなに急かさないでよ」
「ティアだったら似合うだろうなー、わくわく」
そうまで言われればティアナとて悪い気はしない。
薦められるままに、彼女は手に持ったスカートに足を通し――
「あ、あれ?」
「んに? どうかしたティア?」
「な、なんでもない、なんでもないわよっ!」
そう言いながら、なぜか窮屈そうにティアナは腰の位置までスカートを上げたのだが……
「………………」
「………………」
場に沈黙が流れる。どうしようもないほどの沈鬱な空気が場に蔓延する。
ファスナーが……まったく……上がらなかった。
それ以降、自主トレの量が多大に増えたティアナ・ランスターの姿が度々見られたとか見られなかったとか?
どっとはらい。
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