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お題SS第4回

フェイト : 祭りの準備





「酷く遠い」      執筆:コン



 プレシア・テスタロッサの望むままジュエルシード探索を続けるフェイト。朝から飛び回っていたが夕方になり適当な公園で小休止を挟んでいた。木造のベンチに腰掛け、一息つく。
 自分の帰りを待つ母のため、あまり長くは休んでいられない。

「……よし。そろそろ行こうかな」

 疲れた身体に鞭打って立ち上がるフェイト。ベンチから身体を浮かせるが……それまでだった。
 ぐらりと頭が揺れるような感覚に襲われ、ベンチに逆戻りしてしまう。立ち眩みだ。どうやら予想以上に疲労していたらしい。
 仕方なしに、まだしばらく休むことにする。

「ごめんなさい、かあさん」

 謝罪を吐いて俯いた。

「……はあ」

 どれほどの時間、そうしていただろうか。ずいぶん長かったかもしれないし、さほど経っていないかもしれない。
 身体の疲れがある程度抜けた頃、再び立ち上がろうと顔を上げるフェイト。その瞳に初めて公園の風景が飛び込んできた。
 広く、木々や植え込みに手入れが行き届いた綺麗な公園だ。ベンチからは海も見える。
 普段は広場で多くの子供たちが遊んでいるのだろう。広場の面積に対して遊具はやや少ないが、遊び場としては十分だろうと言えた。ただ、今は広場で遊ぶことはできないだろう。

「おーい。釘が足りねぇんだ、回してくれー」
「それより俺の金槌どこ行った?」
「お、そろそろ晩飯の買出し行ってくるか。お前ら、何食いたいかー?」

 広場には角材やベニヤ板が広がっており、男たちがそれらを組み上げていっていた。
 祭りの準備だ。

「?」

 その光景に首を傾げるフェイト。彼女の知識に『祭り』は無く、眼前の景色にある意味を読み取れなかった。
 ただ、思う。

「あの人たち、楽しそうだな」

 角材を組み立て釘で固定し、ベニヤ板を打ちつけ屋台にする。少しずつ出来上がっていく祭りの準備に、男たちは一生懸命に打ち込みながらどこか充実した表情を浮かべていた。
 きっと今していることが楽しくて仕方ないのだろう。

「……行こう」

 陰湿に粘りつく不愉快な指先に心臓を撫でられたような気がして、逃げるようにその場を去るフェイト。
 疲れた身体の足取りはやや重いが歩けないほどではない。

「かあさんのために、早く。早くジュエルシードを集めるんだ。それが私のすべきことで、私はそれでいいんだ」

 そんな言葉を呪文のように繰り返すフェイト。
 それでも、何を思ったか一度だけ公園を振り返った。

「…………」

 先ほどと変わらぬ光景。それは酷く遠く、いくら手を伸ばしても届きそうになかった。
 いいや、手を伸ばしてはいけないのだ。母のためを思うなら。

「私は、行かなきゃいけないんだ」

 彼女は否定する。自分をこの場から逃げさせた考えを。祭りの準備に打ち込む彼らのように、自分の今は充実しているのか否か、という問いを。
 問いの存在そのものを否定する。

「かあさんの、ために」

 フェイト・テスタロッサ。今の彼女にとって酷く遠い場所に手が届く日は、まだもう少し遠い。
 新たな出会いに救われるまで、まだ。




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 感想などは 『魂の奥底から叫んでみよう!』 へどうぞー







「雷光の始まり」     執筆:緑平和




 ずっと、子供だと思っていた。

 侮っていたとか、そういうわけじゃない。
 ただ、ずっと守ってあげなきゃいけないって、そう思っていただけだ。

「――トちゃん、フェイトちゃん聞いとる?」
「え? あっと……ごめん、なんだっけ?」

 そう、声をかけられてフェイトは慌てて顔を上げた。
 ほんの僅かだけ思考に気をとられ、意識に空白が出来ていたみたいだ。

「……フェイトちゃんにしては珍しいなあ。せやからフォワードメンバーの選出。フェイトちゃんはどうするん?」

 呆れたように呟くはやてが手に持っているのは管理局員のデータが載っている書類だ。
 それはこれから始まる新たな部隊で、フェイトが率いる分隊のメンバー候補リストだ。
 先にはやてがある程度選考していたおかげで、量自体はかなり少なく、いずれも訓練校や各所属部隊において優秀な成績を収めた者達ばかりだ。

「まぁ、別にここから無理に選ぶ必要もないけどな」
「うん……別に不満があるってワケじゃあないんだけど」

 そうは言うがフェイトの言葉にはどこか逡巡にも似た感情がある。
 そんなフェイトの姿にはやては首を傾げる。
 フェイトは大人しいタイプの人間だが、思った事を口篭るような性格ではない。
 そんな彼女にしてみれば、これは随分と珍しい反応である。

「実は、候補はもういるんだよね」
「そうなん? やったらこんなに頑張って集める必要なかったやん」

 申し訳なさそうに呟くフェイトに、はやては楽しそうに言う。
 彼女もこの程度で気を悪くするような人間ではない。

「でも、それって誰なん? あ……もしかしてフェイトちゃんが保護責任者しとる子がおったな、エリオに……それとキャロやったっけ?」
「う、うん。ただキャリアの面ではそれほどでもないのが……あっ、才能はすごくあると思うんだ。一からしっかりと教えていければ、すごく強くなれるって思うし」

 慌ててフォローを入れるフェイト。

「ええよ、そんなフォロー入れんでも。フェイトちゃんの分隊メンバーや、フェイトちゃんが納得行く形で集められればそれが一番ええと思っとるよ」
「うん、ありがとう。でも……いいのかな、本当に?」
「ん、なんで?」
「だって、私情が入ってるって言うか……選出理由にしてはちょっと不謹慎だからね、それに――」

 ほんの僅かだけ、視線を伏せてフェイトは不安そうな表情を見せる。

「私達にはやらなきゃいけない事がある。たぶん、それは安全な道じゃないんだよね。それにあの子達を巻き込む事が本当に正しいのかなって、そう思ってもいるんだ」
「うーん、でもまぁ、大丈夫やないかな?」
「ふえ?」

 不安を口にするフェイト。しかし、間髪いれずに返ってきたはやての言葉に彼女は不思議そうに顔を上げる。

「フェイトちゃんは心配性やから、きっとその子達と一緒にいる事はええ事やと思うし、それに――」
「それに?」
「――フェイトちゃんが認めた子達や。もしかしたら、フェイトちゃんが思っとる以上に、成長するかもしれへんで」
「だったら……嬉しいかな」

 口ではそう言いながらも、どこか複雑そうに呟くフェイト。
 そんな彼女の反応にお構いなく、はやては既に広げられた書類を片付け始めている。
 どうやら彼女の中では、決定に近い状況になっているようだ。

 とはいえ、本当にコレでよかったのだろうか、と言う気持ちは晴れない。
 それでも、一緒にいれば、あの子達が危地に陥った時、自分が助けにいける可能性は高くなる。

 ならば、きっと大丈夫。

 守ってみせる。助けてみせる。
 大切なあの子達を悲しませることはないように。

 フェイトはそう、固く心に誓う。


 その結末が、どうなるか今の彼女は知らない。


 それでも、機動六課は始まろうとしていた。



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