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お題SS第5回

ヴィヴィオ : えっちぃ





「風邪っぴきDE御用ZIN」      執筆:コン



 風邪っぴきが二人、一つのベッドで寄り添うように抱き合っていた。素肌と素肌が触れ合った部分が妙に熱い。高すぎるお互いの体温で火傷してしまいそうだった。
 なんでこんなことをしているのだろうと、考える。けれど、頭が上手く動かない。
 もしかしたら、既に脳が熱にやられて溶け出しているのかもしれない。

「くすっ。なのはママたちに見つかったら怒られちゃうかな?」

 熱に浮かされながらも、どこか楽しげに話すヴィヴィオ。そんな彼女に、エリオは困ったように苦笑いを浮かべた。
 だって、十中八九怒られる。

「分かってたら自分のベッドに戻らない?」
「やーだよ」

 本当は身動ぎするのも辛いのだろう。荒い息を吐き出しながらエリオに擦り寄るヴィヴィオ。頬と頬を密着させると、彼の耳に吐息を吹きかける。
 妙に熱の篭った吐息は、エリオの背筋に何かむず痒いものを走らせた。

「くっついてないと怖いんだもん……」

 甘えるような、それでいてどこか寂しさを孕んだ言葉。こういうセリフが上手いから彼女はずるいと、エリオは常々思っていた。
 一拍を置いて腹を括ると、やはり風邪によって熱くなった掌でヴィヴィオの頭を撫でる。
 余計に頭を熱してしまわないようほんの少しだけだったが、それでもヴィヴィオは嬉しそうに笑った。―――熱に犯された中で、ふにゃっと笑った。

「でも、くっついてたら熱が上がっちゃいそうだから、ちょっと離れない?」
「……やだよー」
「手、繋いでてあげるから」
「むー」

 不満を隠そうともしないヴィヴィオ。ぷっくりと頬を膨らませる。

「言うことを聞いてくれるならなんでもするからさ。ね?」
「……むー」

 エリオを睨むヴィヴィオ。恐くはなく、可愛らしい。熱のせいか桜色よりもう少し赤く染まった肌は、まあ、病人の証ではあるのだが。彼女の熱さに直接触れていると頭がくらくらする。
 いや、風邪で頭はくらくらしているわけ、だが。

「それじゃー」

 何かを思いついたのだろう。ずずいっと、ヴィヴィオがエリオに迫る。重なった鼻先は火傷しそうだった。
 いまさらながらにとあることにも気づく。密着しているせいで、彼女の心音を感じ取れた。心臓の鼓動はいつもより早い。

「ねえ――キスしようよ? 離れても不安にならないくらい、とびっきりの」

 言うなり、ヴィヴィオは瞼を閉じた。ゆっくりと唇が降りてきてエリオのそれと触れ合う。けれど、彼女がしたのはそれまでだった。
 それは、これ以上はあくまでもエリオからして欲しいという意思表示なのだろう。

「ん……っ」

 ヴィヴィオの薄い唇をエリオの熱い舌が割った。舌先が上唇を、下唇を弄ぶ。唇の付け根をくすぐるとヴィヴィオはくすぐったそうに身動ぎするが――彼女が逃げられないように、エリオの腕が小さな身体を拘束していた。離れようとした頭も抑えて、閉じられていた歯を抉じ開けたエリオの舌はヴィヴィオの口内に侵入する。
 小さく上がったくぐもった悲鳴を無視して縮こまっている舌に自らの舌を絡める。艶かしく跳ねた腰を抑えつけ、指先で背筋をくすぐってやった。
 触れ合った唇がじっとり熱くなり、熱を孕んだ舌が生殖行為をしている蛇のように絡み合う。

「ん……んんっ……ふわぁ……っ」
「ちゅ……ん……っ……はあん……」

 いつしかヴィヴィオの腕はエリオの後頭部に回されていて、彼を離さないと主張するようにきつく抱きしめていた。
 風邪ばかりではない発熱に身体が汗ばむが、二人はそんなことに気づいた様子もなくお互いの唇を貪り合う。

「あん……っ……えりおぉ……」

 やがて離れた二人の唇が間を置かず再び重なったのは、必然というものだろう。
 風邪っぴきなのに。
 熱出してるのに。

「…………けふ」
「…………きゅう」

 ほどなくして二人がぶっ倒れたのも、たぶん、必然なのだろう。
 二人仲良くなのはに怒られることも含めて、きっと。






「んもうっ。ヴィヴィオ、エリオ。別々の部屋で寝てもらうからねっ!」
「や、やだよーうっ」
「だって一緒の部屋にいたら熱が上がることしちゃうじゃない」
「……いいんだもん」
「よくないよ」
「いいんだもん!」
「よくないよ!」
「エリオとヴィヴィオはふーふだからいいんだもん!」
「よくな……え、夫婦?」
「うん。ふーふ」
「……どういうことかな、エリオ?」
「……ね、熱がー。あー、だめだー。何も考えられないなー、あはは」
「そっか。じゃあ、ちょっと頭冷やしてあげよっか?」
「…………」
「な、なのはママだめぇっ! ヴィヴィオのだーりんいじめないでー!」
「あぁっ!? ヴィヴィオそれ墓穴だからぁーっ!?」
「―――スターライトブレイカー!」
「う、うわぁあああああああっ!?」

 ちゃんちゃん。




 ●



 感想などは 『魂の奥底から叫んでみよう!』 へどうぞー







「らいとにんぐハート ヴィヴィオルート一部抜粋(嘘)」     執筆:緑平和





 なぜ、こんなことになったんだろう?

 今の状況を改めて思い返しながらエリオは考える。
 本日の訓練も無事に終わり、あとはゆっくり身体を休め、明日に備えるだけであった。

 JS事件が収束し、その後は訓練の内容もよりハードになり、一日が終わる頃には精根尽き果てフラフラになるのも難しくない。
 どこか頼りない足取りで目的地へと向かうエリオ。

 事件はその時に起こった。

 唐突に胸元に衝撃が走る。
 予期せぬ衝突ではあったが、思いのほか柔らかい衝撃にエリオは僅かにたたらを踏む程度で納まったが、相手はそうもいかなかった様だ。

「ひゃう!?」

 小さな悲鳴が聞こえた。慌てて視線を下にやるとそこには、床に尻餅をついたヴィヴィオの姿があった。
 機動六課の中では最年少の部類に入り、背丈も他の局員に比べ明らかに低いエリオは、視線をいつも高めに設定する癖があり、それがヴィヴィオを補足する弊害となってしまったようだ。
 訓練の後で、注意力が散漫になっていた所為もあるかもしれない。

 だが、今はそんなことよりも倒れてしまったヴィヴィオの方が重要だ。
 エリオも慌ててヴィヴィオの傍らに膝を付き、心配そうに声を掛ける。

「だ、だいじょうぶヴィヴィオ? 怪我とかしてない?」
「………………ふぇ?」

 しかし、ヴィヴィオは自分の身に何が起こったのかよく解らず、どこか茫洋としている様子だ。
 改めて怪我が無いかと彼女の姿を見ると、全身が乳白色の液体で濡れていた。
 足元には転がった紙コップも転がっている。どこかへ飲み物を運んでいる途中だったのかもしれない。

 幸いなことに怪我などは無いようだが、流石にこれは看過するわけには行かない状況だ。

「あ、あわわ、え、えっと、こういう時はどうすれば……!?」
「う〜……べとべとするぅ」

 予想外の事態に慌てふためくエリオと、泣きはしなかったが、やはり不快そうに表情を歪めるヴィヴィオ。
 状況はどうにも悪い方向へ、悪い方向へと突き進んでいるようだ。

「あっ、そっ、そうだっ! 迷惑かけて申し訳ないけどアイナさんに――」
「アイナさん、いまお仕事中だよ?」

 至極冷静にヴィヴィオに突っ込まれ、言葉を噤むエリオ。
 他に頼りになりそうなのはフォワードメンバー一同だが、間の悪いことに今は三人とも入浴中だ。
 流石に、そこに突撃する勇気はエリオには無い。

「だ、だったらやっぱりなのはさんかフェイトさんに……」

 いま、どこにいるのかは解らないが、やはり一番頼りになりそうな人物を頭に浮かべるエリオ。
 しかし、思案を続ける彼の隣で、事態は更に悪化の一途を辿っていた。

「おようふく、脱ぐ……」
「って、うわあああ!? なにやってるのヴィヴィオ!?」

 なにやらごそごそとしているかと思ったら、唐突に濡れてしまった上着を脱ぎ始めるヴィヴィオ。
 何時、誰が通るとも解らない廊下の真ん中でだ。
 慌ててその動きを止めようとするが、ヴィヴィオは不満顔を隠そうともしない。

「……だって、べとべとして気持ち悪いよぅ」
「いや、それは解るんだけど……」

 思わず押し留めるが、確かにこのままではなんの解決にもならない。
 それ以前に、今のこの状況は果てしなく危険極まりないものではなかろうか?
 びしょ濡れで、しかも服が肌蹴た少女に、何事かを懇願する少年A(エリオ)。
 この絵は傍から見るとずいぶんと危険極まりない代物ではなかろうか。

 繰り返し言うが、今は幸か不幸か誰もいないが、ここは何時誰が通ってもおかしくない廊下の一角なのだ。
 危険信号がエリオの只中で灯る、とはいえこの場にヴィヴィオを置いていく事などできるわけが無い。

 そこで、エリオは自分の手に持っている洗面道具一式――そして、自分が先程まで行こうとしていた目的地の存在を思い出した。


 ●


「なんか……こういうのを泥沼って言うのかな……」

 諦めの入り混じった口調で呟き、エリオはがくりとその場に膝を折った。
 ここは男性用共同浴場――まぁ所謂お風呂である。

 基本的にこの時間はエリオの貸切である事が多く、今日も他の入浴者の姿はない。
 ただ一人、ヴィヴィオの存在を除いて。

「おっふっろー、おっふっろー!」

 ヴィヴィオはやけにテンションが高い様子で汚れてしまった服を脱いでいる。
 先程の突発的な行動とは違い、目的に沿っているのでその行動を止めることは出来ない。
 結局エリオはそちらを出来るだけ見ないようにヴィヴィオが脱いだ洋服を拾い集め、備え付きのランドリーに放り込む。

「とりあえず、代えの服は僕ので我慢してもらうとして……後は……」

 ヴィヴィオの方をどうするかである。
 零した飲み物は彼女の髪にも掛かってるらしく、できるだけ早く洗い流した方がいいのは確かだろう。
 問題があるとするならば、

「ヴィヴィオ……その、一人でお風呂には入れる?」
「…………一人だとちょっと、こわい」

 ヴィヴィオのほうを見ないように尋ね、返ってきた言葉に、再び重い溜息が出そうになる。
 まぁ、一人でお風呂に入らせて事故でも起こればそれこそ取り返しの付かない事態である。やはりどうしても監督する立場の人間がいないといけないだろう。
 そして、今現在その役目に該当する立場の人間はエリオしかいない。

 改めて、迷惑になったとしてもキャロか誰かに頼めばよかったと心の底から後悔する。
 だが、それだと「ついでだから、エリオくんも一緒に入ろうよ〜」などと言われ、より大変な事態に転がっていた可能性もなくは無い。
 いや、むしろそうなっていた可能性が異常に高く思えてくるから不思議である。

 などと現実逃避している暇もあまりない。
 このままだとヴィヴィオが風邪をひいてしまうし、時間をかけてもあまり良い案が生まれるとは思わない。
 そう思った、エリオは観念したように、ヴィヴィオのほうに手を差し伸ばした。

 手を握っていれば、ヴィヴィオのほうを見ていなくてもなんとかなるだろうと思ったのだ。

「じゃあ、お風呂に行こうかヴィヴィオ。足元、滑らないように気をつけてね」
「……? エリオ、お洋服着たままだよ?」
「え……あ、うん、そうだけど……」

 しかし、不思議そうな声でヴィヴィオにそう返される。
 確かに今のエリオは未だに服を着たままだ。しかし、訓練服が多少濡れたところで気にはしないし、湯船に漬かるのはヴィヴィオを無事に帰してからで十分である。
 しかし、ヴィヴィオからは不満そうな声が上がる。

「お風呂入るときはお洋服脱がなくちゃメッだよ! はだかのおつきあいなの!」
「いや、確かにそうかもしれないけど……」

 どこでそう言う言葉を覚えてきたんだろうか、などと思いつつ、どう言ったものかと考える。

「ほ、ほら、これ脱いじゃうと防御力が落ちるから」
「嘘はメッ!」

 自分でも苦しい言い訳だったとは思うが、ここで服を脱いでしまうと精神的防御力がガタ落ちになってしまいそうなのは事実である。
 しかし、ヴィヴィオは納得してくれなかったようで、むー、と不機嫌そうな声が漏れている。
 自分はどこで何を間違えてしまったのかと改めて思う。

 だが、そこで考えを改める。
 そうだ、気にしすぎるからいけないのではないか?
 ヴィヴィオはエリオにとって妹のような存在だ。ヴィヴィオにしてみてもお兄ちゃんが精々だろう。
 証拠に、彼女は何の気兼ねもしていない。ただ、自分が恥ずかしがりすぎなのだ――と。

 ある意味、開き直りとも言うが、何をおいても任務達成を第一に考えなければいいのだ。
 何時までも恥ずかしがってなどいられない。

「わ、わかったよ……じゃあ、ちょっとそこで待っててね」
「はーい」

 ヴィヴィオの返事をバックにさっさと服を脱いでしまうことにしたエリオ。
 けれど最後の砦として腰にタオルは巻いておく。

「よしっと……それじゃあヴィヴィオ、いくよー」
「わーい」
「わっ、ちょっ、は、走っちゃダメ!」

 ヴィヴィオに手を引かれ、転びそうになりながら浴室に向かう。
 恥ずかしがらないと誓ったものの、さすがにヴィヴィオのほうを直視することは躊躇われるためにうまくバランスが取れない。
 それでもなんとか洗い場へと向かい、ヴィヴィオを座らせる。

「え、えーと、それじゃあ……」

 そこで、ようやくエリオはヴィヴィオのほうを改めてみる。
 そこには、当然と言うかなんというか、裸のヴィヴィオの姿がある。
 エリオから見えるのは彼女の背中だけだが、少女独特の健康的な背中からお尻までのラインが丸見えである。
 それを見詰める自分の姿になにか犯罪的な匂いを感じ取ったが、気にしたら負けだ、気にしたら負けだ、と自分自身を鼓舞するエリオ。

「え、えっと……今から頭を洗うけどヴィヴィオは大丈夫?」
「うんー、フェイトままみたいにしなくても、ヴィヴィオ頭洗えるよー」
「…………」

 何か今、聞いてはいけないような秘密を聞いてしまったような気がするが、聞かなかったことにしよう。
 そう自分に言い聞かせながら、シャワーの温度をいつもより若干温めに調整する。

「じゃあ、シャワーかけるけど、熱かったり痛かったりしたら言うんだよ?」
「はーい」

 そう言う、ヴィヴィオに向けてゆっくり、できるだけ優しくお湯をかける。
 軽く髪を洗い流し、シャンプーを始めると、彼女はくすぐったそうに身をよじり始める。

「くすぐったーい」
「え、だ、大丈夫なの?」
「うん、平気だよー」

 楽しそうに笑いながら呟くヴィヴィオだが、エリオとしてはあまり気が気ではない。
 気づけば、割れ物を触るような手つきなってるし、緊張するなと言うのも無理な話だろう。

 それでも、続けるうちに幾許か緊張は解れてきた。
 まるで子猫かなにかを洗っているかのような気持ちになってきて、恥ずかしさも薄れていく。

「はい、じゃあ洗い流すよー、目を瞑ってー」
「んー」

 身構えるように瞼をぎゅっと閉じる姿も微笑ましく感じる。
 ちょっとした悟りの境地に辿り着いたエリオは、そんな彼女を笑顔で見守れるまでに至っていた。

 ぷるぷると首を振って、水滴を飛ばす姿を見詰めながら、とりあえずこのままだと何事もなく終わらせられるかな、などと思っていた。
 それは、一概に油断と呼ばれる状態であることをエリオが思い知ったのは、次の瞬間であった。

「じゃあ、次はヴィヴィオが洗ってあげるー」
「ぬわああぁぁぁ!?」

 唐突に、ヴィヴィオが立ち上がりこちらに振り返ったのだ。
 目の前に少女の裸がどアップで立ち塞がる。
 それは言うなれば、何の起伏も無い少年も少女も関係の無い身体であったが不意打ちであった所為か、思わずエリオは後退さりしてしまう。

 しかし、浴場であったのが災いした。踏ん張りが利かない軸足はあっさりと滑り、そのまま仰向けの姿勢でエリオはすっ転んでしまう。

「あっ――は、はわわっ!」
「うわっ、ヴィヴィオ!」

 そんな彼へ、反射的に駆け寄ろうとしたヴィヴィオも連鎖的に、足を滑らせる。
 何とか受身を取ることに成功していたエリオは、上から降ってくるヴィヴィオを何とか受け止めるべく手を広げる。
 その甲斐あってかヴィヴィオは、エリオの身体の上に無事落ちる。だが、その代わりに後から振ってきた衝撃に、エリオの後頭部が鈍い音を立てて浴場のタイルと激突する。

「――っっ、ッつぅ……」
「エリオ……だいじょうぶ?」

 幸いなことにヴィヴィオのほうは無事だったのか、エリオの胸の上でむくりと上体を起こして、心配そうにこちらを覗き込んでくる。
 正直に言うならば、まだ視界はチカチカしていたが、心配を掛けすぎるのも悪いと思い、無理矢理に笑みを浮かべる。

「だ、大丈夫だよ、心配しなくても。ごめんね、びっくりさせちゃって……」
「そんなこといいよぅ、エリオが怪我してなかったら……」

 どこか泣き笑いのような表情でこちらを見詰めてくるヴィヴィオ。
 その姿に、エリオは不覚にも――先程とは何か違う胸の鼓動を覚える。

 それは恋心によるものか、それとも――


 ――――迫りくる危険を予知した上での震えだったのか。


 次の瞬間、爆音が響いた。
 桜色の光が、エリオたちの真上を通過し、後には天井の吹き飛んだ男湯の無残な姿が残される。

「…………は?」

 何が起こったのか、解らずに呆けた声を出すエリオ。
 ただ、何かに導かれるように、油を差し忘れた機械のようなぎこちなさで、首を巡らす。

 そこに――彼女がいた。
 既に用を果たさなくなった浴場と更衣室を繋ぐ敷居に立ち、愛杖の先端をこちらに向ける彼女の姿が。
 その背になにやらドス黒いオーラのようなものが見えるのはエリオの幻覚か何かだろうか?

「あ、なのはママだー」

 ヴィヴィオの嬉しそうな声が、聞こえた。
 落ち着け、と自分に言い聞かせる。そうだ、別に何もやましいことをしているわけではない。
 キチンと説明すれば彼女も解ってくれる筈だ――と、自分自身に言い聞かせる。

「ヴィヴィオの帰りが遅いなぁって思ってたら……なにしてるのかな、エリオ?」

 背中に氷柱でも差し込まれたような寒気が全身に走る。
 説明しなければ、わかりやすく、かつ論理的に今ここに至った事情を。

「お、落ち着いてください、これはですね――」
「髪とかお洋服が白くてべとべとになっちゃったから、エリオがお風呂にいれてくれたのー」
「何でそんな的確かつ恐ろしく誤解されそうな言い方を!?」

 エリオがなにか言う前に、ヴィヴィオがなんとも解りやすく説明してくれた。
 その所為か、なのはの周囲に漂うオーラが更に肥大化した気がする。なぜだろう、なぜなんだろう。

「へぇー、ふぅーん、そっかぁ……そうなのかぁ……」
「お、落ち着いてくださいなのはさん!! おそらく、今なのはさんがご想像してるのは大きな誤解です!」
「その格好で言われてもなぁ……」

 どこか蔑んだ声でそう言われる。
 そこで、始めてエリオは自分が今どういう状態なのか、思い出した。

 傍から見れば全裸で抱き合うように寝転ぶ男女。
 エリオが下なのがせめてもの救いといえば救いか。

「いや、これはちょ、また色んな事情があって」
「ヴィヴィオ……巻きこまれたら危ないからちょっとこっち来ようか」
「はーい」
「のわぁっ、あっさり見捨てられた!?」

 あっさりとエリオの上からどき、とてとてとなのはの元に駆け寄るヴィヴィオ。
 藁でも掴むかのようにエリオはヴィヴィオに手を差し伸ばすか、優先順位はなのはの方が高いのか、彼女が帰ってくることはなかった。

「じゃあエリオ……痛いの我慢できるかな?」
「…………て、程度によると思います」
「うん、無理だと思うよ」
「誰か助けっ――――」


 そうして、世界を桜色に染め上げる光にエリオは飲み込まれていった。


 ●


 その後、男性用浴場は謎の爆発により、しばらく使用不可能になったそうな。
 どっとはらい。


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