一撃殲滅 星光さん!! 第二話 『宿命のライバル!? 雷刃ちゃん現れる!?』
「……はぁ。あんなに高いものだったなんて予想してなかったよ……」
少女の溜息が、商店街の一角で静かに響いた。
時刻は夕方、ちょうど買い物客で賑わう時間帯なのだろう、それなりに人通りの多い海鳴商店街に、一際目立つ少女の姿があった。
背丈から見て、年の頃は二桁に届くか届かないかと言った外見ながら、どこか同年代の少年少女よりも大人びた雰囲気を醸し出す美しい少女だ。
顔立ちが整っていることに加えて、夕日を浴びて輝くその金色の髪もまた衆目を集める要因となっているのだろう。
フェイト・T・ハラオウン。
高町なのはの友人であり、先日星光さんにトラウマモノの映像を見せ付けられた薄幸の少女である。
「まさか定価で三万円もするなんて……さすがにお小遣いでどうにかなる額じゃないよ……」
買い物袋を片手に提げたその姿は今、どこか気落ちした様子で沈んでいる。
手元にあるのは家庭科の授業で編んだ手作りの小銭入れ。その中身を見て、再度大きな溜息をつくフェイト。
彼女がこうして途方に暮れている理由は先程買い物ついでに立ち寄った薬局で見たとある光景が起因していた。
超小型害虫駆除構築体――星光さん。
専用スペースに別売りのアクセサリーキットやカートリッジと共に並んでいた彼女の姿――そしてその値札に書かれた金額にフェイトはつい先程打ちのめされてきたばかりであった。
ちなみにフェイトがもっている小銭入れの中には買い物用とは別に、折り畳まれた千円札が三枚。これが今のフェイトが自由に使える全財産である。これでは残念ながら星光さんのオプションパーツであるメイド服セットさえ購入することができない。
「先に値段を調べれば良かったなぁ……折角リンディ母さんにお願いして、お小遣い貰ったのに……」
気落ちした様子で呟くフェイト。
ちなみに彼女はある事情でこの年齢にして既に非常勤ながら働いており、実のところ星光さんを数体は買える額のお給料を貰っている身分だったりする。
けれど、まったくといっていい程欲のないフェイトは、それら給料の管理を全て義理の母であるリンディに一任しており、普段はそのお金に一切手を付けたりはしていなかった。
そんなフェイトがUMAを発見するよりも珍しいことに「欲しいものがあるんですけど……」と遠慮がちにリンディにおねだりしたのが買い物に行く前の事だ。
普段まるでわがままを言わないそんな娘の言葉に、大変狂喜乱舞して「な、なにが欲しいの? 私もついて行きましょうか? あ、お金ね、お金が必要よね!」と札束を取り出し掛けたリンディをなんとか宥めすかし、ようやくの事でお小遣い三千円を手に入れたフェイト。
だが、結果はご覧のありさまだ。
恐らく、再度リンディに事情を説明すれば、星光さんを購入する額程度すぐに捻出してくれるだろう事は想像に難くない。
けれど、今更十倍の額を出してくれなどとお願いする事などフェイトには到底できそうになかった。
「ふぅ……残念だけど、仕方ないよね。あ、そうだ。このお金でアルフやリンディ母さんに何かお土産でも――」
と、若干寂しげにしながらも、笑みを浮かべるフェイト。
そこへ、唐突に車輪の軋む音が響き渡った。
ガラガラガラ、とアスファルトの大地を蹴立てるように、背後から響くその音にふと振り返るフェイト。
その視線の先には、キャスター付きの長机をゴロゴロと押しながら買い物客で賑わう商店街の通りを爆走するチャイナドレスを着た謎の集団の姿があった。
「へ……?」
フェイトだけではなく、全ての買い物客がそんな呆然とした声を上げ、奇異の視線を向ける中、謎の集団はそのままフェイトの隣を通過――したかと思うとキャスター机でものの見事なスピンターンを描き急ブレーキ。ゴムの焼け焦げる匂いを周囲に撒き散らしながら、フェイトの行く手を塞ぐかのように停止した。
「アイヤー。そこの道行くステキなお嬢さン。福引していかないアルかー?」
ぜぇぜぇ、と若干肩で息をしつつ明らかにおかしなイントネーションでチャイナドレスの一人が話しかけてくる。その間に残り二人のチャイナドレスが机の後ろにポールを立て横断幕を掲げる、そこには「海鳴商店街福引会場」の文字が躍っていた。
それにしても怪しい。その一連の行動の全てがまず怪しいが、チャイナドレス姿の三人組が皆一様にサングラスとマスクで顔を隠している辺り完全に不審者でしかない。
周囲の人々が明らかにヤバめなその集団に三歩ほど後退り、商店街の中央に妙なエアポケットを作る中、しかし人を見た目で判断したりしない良い子のフェイトは特に気にすることもなく、
「福引……ですか? でも私福引券なんて持ってないんですけど……?」
「気にすることないヨー。サービスサービスゥ。お嬢ちゃんカワイイからオマケしちゃうネー」
中央の一人、エメラルドグリーンの長い髪に、額にどこかで見たことのある特徴的な紋章の浮かんだチャイナドレスがそう言ってフェイトを招きよせる。
「さぁフェイ――じゃなかった。お嬢ちゃん。これをガラガラ回すといいよ!」
そう言って、横断幕を立てていた二人目の額に輝く青い宝石が特徴的なチャイナドレスが福引の際によく見られるガラガラ――新井式廻轉抽籤器をフェイトの前に差し出す。
「い、いや、ちょっと待ってくれ!? なんで僕までチャイナドレス着せられてるんだ!? 顔を隠すだけで充分なんじゃないか!?」
黒髪の美少女っぽいチャイナドレス三人組の最後の一人が、そんな流れを断ち切るように叫ぶ。
「え……あれ? クロノ? そんな格好で、何してるの?」
よく見たら義兄だった。
「なんで僕だけ一発で看破するんだ君は!? というか義妹に女装しているとこ見られたー!?」
ああああ、と大地に膝をつき頭を抱えながら天を仰ぐクロノ。そんな義兄の姿を小首を傾げながら不審に思いつつも、
「まぁまァ。あんなのは放っておいてガラガラ回すヨロシ!」
「え、あ、はい……」
ずずい、とガラガラを差し出されたフェイトは、反射的にハンドルを握りゆっくりとガラガラを回し始める。
本来ならば無数の玉が入っている為、回すたびにガシャーガシャーと喧しい音を鳴り響かせる筈のガラガラだが、今は入っている玉が少ないのかほぼ無音で、手応えもまるで無い。
あれ? と思いつつ手を止める。瞬間、排出口から小さな金色の玉が転がり出てきた。
「おおぉーあたぁーりぃー!!」
まるで予め何が出るかを知っていたかのように、アシスタント役のチャイナドレスが当たりのベルをがらんがらんと打ち鳴らす。しかし当のフェイトは何が起きたかまったく理解できぬまま「ふえ!? はえ!?」と目を白黒さしている。
「おめでとうございまぁス! 一等商品は今話題のインターセプトマテリアル最新型を一式プレゼントアルヨー!」
インターセプトマテリアル。つい先程見てきたばかりの一撃殲滅星光さんの正式名称であるその単語に、フェイトが驚きの表情を浮かべた。
「ささサ。どうぞどうゾ。持って帰って頂戴ヨ」
「え? でも、あの、こんないきなり……」
プレゼント用に綺麗に梱包された箱を渡され、明らかに戸惑うフェイト。その表情は、本当にこんな高価なものを受け取ってよいものかどうか悩んでいる様子だ。だが、フェイトの迷いも空しく、
「ボス。奴らが追ってきたよ! ホラ、さっさとズラかるよクロノ」
「む、いけないわね。ほらクロノ、撤収よ!」
「だからなんで僕だけ名指しなんだよ!?」
フェイトが呆然とするなか、僅か数秒で撤収作業を終えたチャイナドレス二人とクロノは、そのまま再度キャスター付き長机をガラゴロ言わせながら、嵐のようにその場から去っていった。
そんな彼等を追うように、「待てぇー! 海鳴商店街の新井式廻轉抽籤器を返せぇー!」「その新井式廻轉抽籤器はイベントを盛り上げる重要な道具なんだぞ!!」「新井式廻轉抽籤器を皆の力で取り戻せぇー!」と商店街の関係者らしき人々が、傍らのフェイトに気づく事無く、駆け足で通り過ぎていく。
あとにはざわめく人々と、大き目の箱を胸に抱えたフェイトの姿だけが残り、
「ど、どうしよう……これ」
困ったように呟いた。
●
「……フゥ、なんとか巻いたみたいね」
「というか、最終的には結界魔法まで使ったけどね。しつこい奴らだよ。まったく」
「いや、それ以前になんでこんな大事になっているんだ!? フェイトにプレゼントを渡すだけじゃなかったのか!?」
「そんなこと言ってもねぇ……あの子の事だから無碍にはしないだろうけど、記念日でもないのにいきなりプレゼントなんてされたって遠慮するでしょう?」
「フェイトはそのあたり結構気にしちゃうタイプだからねぇ」
「それは解るが……何もこんなことまでしなくても……」
「ガラガラをちょっと借りただけだろー。プレゼントの方はちゃんと買ったものなんだし、いいじゃないか」
「けど、確かに商店街の人には悪いことしちゃったわね、あとでこのガラガラも綺麗にして返しておかなくっちゃ」
「まったく……けどまぁ確かに、フェイトが何か欲しがるなんて滅多にない事だしな。アルフや母さんが興奮するのも無理は無いか」
「確かにちょっと高かったけど、フェイトの笑顔を見れるなら安いものよね。けど、最近はこんなものが人気あるのね、最後の一体だけしか残って無かったけど、買えてよかったわ」
「ん、あれ……でも、これ……?」
「どうかしたのか、アルフ?」
「ん、いや……今、領収書見てたんだけど、なんか前にフェイトから聞いたのと微妙に名前が違うような……?」
「………………え?」
●
「襲撃必倒・雷刃ちゃん…………?」
あれから数時間後。暫くの間どうするべきか悩みに悩んだ末、フェイトは福引で当てた箱を自宅に持ち帰り、ドキドキしつつ梱包されていた包み紙を丁寧に剥いだ。
その奥から出てきたブリスター型パッケージから覗く姿は、なのはの所で見た星光さん――とはあまり似ていない、青いツインテールの少女。
それこそがMC製薬のライバル会社『ベルカ・コーポレーション』が作り出した超小型害虫駆除構築体(インターセプトマテリアル)。襲撃必倒・雷刃ちゃんである。
後進であるが故に、そのスペックは概ね星光さんを凌駕しており、更にはその感情表現の豊かさからバーチャルペット的人気を獲得。今では全国各地で売り切れが続出する人気商品となっていた。
そんな中、リンディ達は偶然にも一体だけ残っていた雷刃ちゃんを手に取り、それをフェイトにプレゼントした、と言うわけだ。とは言え、そんな事情を知らないフェイトの胸中は複雑だ。彼女が欲しかったのは最新のIMではなく、あくまでなのはに似ていた星光さんなのだ。
もちろん、福引で当てた(とフェイトは思っている)ものに文句を言っても仕方が無い。
「この子が悪いわけじゃないもんね……それにしてもこの子、なんだか私に似ているような……?」
ブリスターパックに包まれた少女の姿をためつすがめつ眺めながら、呟く。
全体的な色合いこそ異なっているが、その顔立ちや髪型などどこか自分と似た特徴を感じさせる雷刃ちゃんの姿に、不思議そうに首を傾げるフェイト。心なしか着ている服も自分のバリアジャケットそっくりに見える。
「まぁでも……きっと偶然の一致だよね?」
なんだか嫌な予感を感じつつも、そう自分を納得させるフェイト。雷刃ちゃんがどのような経緯の元、作られたかを彼女が知るのはもう暫く後の事だ。
なにはともあれ、箱詰めにされたままだと可哀想だと感じたフェイトは、雷刃ちゃんを開梱し、傷つけないようにと気をつけながら本体を取り出す。
合わせて、取り出した取扱説明書を開き、書かれている注意事項を読み上げるフェイト。
「えーっと……雷刃ちゃんは電気と魔力によって稼動する構築体です……あ、あれ? こっちの世界って魔法や魔力の事は一般的に知られてないんじゃ……?」
世界観の設定が崩壊するような記述が見られたが、あまり突っ込んでいくと面倒くさいのでスルーすることにした。
「……雷刃ちゃんを始めて起動する際にはフル充電しなくてはなりません。同梱の電源ケーブルをコンセントに刺して充電してください…………十二時間程度で充電が完了します。じゅ、じゅうにじかん……?」
予想外に長い充電時間に面食らうフェイト。星光さんではないとはいえ、折角手に入れたIMの動くところを早く見たいと考えるのは当然の思考だった。
とはいえ、充電しなければ動かない以上、大人しく説明書に従うしかない――そう、本来ならば。
「電圧は……うん、このくらいなら一気に……」
アダプタに描かれてある情報を仔細に読み取るフェイト。そして、人差し指をぴんと立てると、そのまま雷刃ちゃんの背中にある接続ポートに触れ。
「えいっ!」
瞬間、バチィと光が弾け飛び、規定の物を遥かに越える電流が雷刃ちゃんの身体を一瞬で巡った。
フェイトの特異体質によって作られた電気による急速充電。
以前も充電式の家電製品で何度か試したことのあるフェイト独自の裏技だ。これで問題なく充電が完了することは確認済みだ。故に、今度も上手くいくとフェイトは思っていたのだが――、
『あばばばばばばっっ!!??』
突如として雷刃ちゃんの口から断末魔の如き悲鳴が上がったかと思うと、その身が打ち上げられた鮮魚の如くビクンビクンと痙攣する。
「え……あ、あれっ!?」
流石にこれはマズいと思ったのだろう、慌てて電力供給をストップするフェイト。同時に雷刃ちゃんの悲鳴と痙攣も止まるが、次の瞬間にはその小さな身体はまるで屍のようにだらんと力なく垂れ下がり、耳や口からは見るからにヤバげな黒煙がうっすらと立ち昇っていた。
「え、あ、ど、どうしよう!? どうしようコレ!?」
軽くパニックに陥るフェイト。そのまま彼女は動かぬ雷刃ちゃんを掌に乗せたまま文字通り右往左往する。だが、その時、
『充電完了しました。雷刃ちゃんを起動します』
どこか淡々とした調子のシステムメッセージが雷刃ちゃんから響くと同時、今まで完全に脱力しきっていた雷刃ちゃんの身体がピクッと反応した。
緩慢な動作ではあるが、フェイトの掌のなかで雷刃ちゃんがゆっくりと身を起す。
自ら動き始めたそんな雷刃ちゃんを「わ、わ……ちゃんと動いた!?」とフェイトは驚き半分、感動半分と言った心持ちで見守る。
そうして数秒の時間を使い、上半身を完全に起す雷刃ちゃん。電撃の後遺症か、ややぼんやりとした表情を浮かべているものの、目の前のフェイトを見上げる。
目が合った。確かにそう感じたフェイトは逸る気持ちを抑えつつ掌の中の雷刃ちゃんに語りかける。
「あ、あの……だ、大丈夫?」
『………………』
こちらの言葉を聞いているのかいないのか、ぼんやりとした表情のまま雷刃はゆっくりと周囲の状況を確認するかのように見回した後、
「…………Zzz」
寝た。ぱたりと身を倒したかと思うと、次の瞬間には重ねた掌を枕に、すやすやと表現すべき見事な様子で熟睡し始めた。
「へ!? あ。ちょ、ちょっと……ね、寝ないで。私の話を聞いて!」
『…………むー、なんだよ。僕まだ眠いんだよ』
明らかに不機嫌そうな声音で瞼を擦りつつ、再度身を起す雷刃ちゃん。なのはのところで見た星光さんが喋っていたところを見ていたフェイトだが、それと比べると遥かに人間らしいその動作や反応に、フェイトは少し驚きを覚えつつも、雷刃ちゃんがきちんと動いている事に安堵を覚える。
「あ、ご、ごめんね。さっきはなんだか私の所為ですごい状態になってたから……大丈夫かな、って思って……」
『……? なんのことか解らないけど、この僕がそう簡単に壊れたりするわけがないだろう。ふふん、なにせ僕は「ちょーさいしんこーせーのー」だからな、えへん!』
誇らしげに胸を張る雷刃ちゃん。どうやら彼女にはつい先程死に掛けた記憶は無いらしい。多少の不安は残るものの、雷刃ちゃんも元気そうではあるし、特に問題はない様子だ。
「なんとも無いならいいんだけど……調子悪かったりしたらちゃんと言ってね」
『強くて速くてかっこいいこの僕が不調になることなんてあるわけないけど、そうだね、覚えておいて上げるよ』
Vサインを掲げ、意気揚々と言った様子で答える雷刃ちゃん。やや言動が幼いというか、あまり考えて物を喋っていない様な気がするがそういう仕様なのだろう。元気一杯なその様子にフェイトは一先ずホッと胸を撫で下ろす。
「よかった……それじゃあ、これからよろしくね、雷刃ちゃん。私はフェイト。フェイト・T・ハラオウンだよ」
『フェイト、だね。うん、覚えた! それじゃあこれからよろしくね! なぁに、大船に乗った気でいなよ。この僕が来たからにはこの家の害虫は全部僕が木っ端微塵にしてあげるからさ!』
「あ、え、えっと……そのことなんだけど……」
と、先日なのはの家で見たトラウマ映像がフラッシュバックし、表情を青褪めさせるフェイト。
「その……虫退治とか、そういうのは、雷刃ちゃんはやらなくていいからね。ちゃんと私がお掃除するから」
どこか切実な様子で懇願するフェイト。よほどあの時見た光景が心にダメージを与えたのだろう。
そんなフェイトの頼みを、雷刃ちゃんは「ふんふん」と熱心に聞いていたかと思うと、先程と同じように胸を張り、声高らかに叫んだ。
『うん、解ったよ! なぁに、この僕に任せておけば大丈夫だって!』
「そ、そっか……それならいいんだけど」
いまいち会話が成り立っていないような気もするが、そんな雷刃ちゃんの無駄に元気一杯の返事に、安堵の吐息を漏らすフェイト。
そうして会話が一段落したところで、気が緩んだのか雷刃ちゃんは両手をあげつつ大きな欠伸をひとつ。
『……あ、ふ。むにゅむにゅ……そう言えば、僕まだ寝足りないんだった……。特に用事が無いならもうちょっと寝かせてもらうよ』
「あ、うん。ごめんね、無理矢理起しちゃったみたいで」
本当はもっと色々とお喋りしたいフェイトだったが、雷刃ちゃんを無理矢理つき合わせるわけにもいかない。
ちょっとした名残惜しさを感じつつも、自ら付属のマット型充電器を取り出しつつ、充電モードに移行する雷刃ちゃんを見詰める。
『それじゃあ、おやすみ。ふぇいと……Zzz』
充電マットの上で丸まり、そのままいびきをかきつつ眠りこける雷刃ちゃん。
小動物か何かを思わせるその姿に、思わず頬が緩み、フェイトは自然と笑みを浮かべる。
「雷刃ちゃんかぁー。明日はもっとたくさんお喋りできるといいな」
●
同日。深夜。
草木も眠る丑三つ時。フェイトが静かに寝息を立てる部屋の中、ゆっくりと動きだす影があった。
ゆっくりとその身長10センチ程度の小さな身体を起した、それは爛々と輝く瞳で獲物を品定めするかのように周囲をゆっくりと見回し、
『うひひひひひ。君は死ね! 僕は飛ぶ!』
獲物を狩るべく、一気に飛び出した。
●
翌朝。
『ふぇいとー。ふぇいとー。ねぇねぇ、起きてよふぇいとー』
耳元で囁かれるそんな言葉に、フェイトはまどろみの中からゆっくりと意識を覚醒させた。
アルフやリンディではないが、どこかで聞き覚えのある声。
いまだ覚醒しきってない記憶の奥底からその名を紡ぎだしたフェイトは眠い目を擦りつつ、ゆっくりと身を起した。
「雷刃ちゃん……おはよう……どうしたの?」
未だ寝ぼけ眼のまま周囲を見渡すフェイト。しかし夜はまだ明けていないのか窓から日の光が差し込む気配は無い。
早朝の時刻、電気もつけない部屋の中はほぼ真っ暗で雷刃ちゃんの姿さえ把握できない。
しかし、元気に跳ね回っているような気配は確かにすぐそこにあり、
「あ、おはよーふぇいと! ほらほら、ねぇ、見てよコレ!!」
ぴょんぴょん、といった効果音だけがベッドの脇のチェストの方から聞こえる。
一体なんだろう、と不思議に思いつつ、電気をつけ様と天井からぶら下がる紐に手を掛けるフェイト。
カチリ、とスイッチの入ると同時、蛍光灯の明かりが薄暗い部屋の様子を鮮明に映し出した。そこには、えへんと胸をはる雷刃ちゃんの姿と、
『ねぇほら見て見て! たった一晩でこんなに倒したんだよ! えっへん! すごいでしょ、褒めて褒めてー』
雷刃ちゃんの隣で山のように詰まれた“奴ら”の死が(略)
悲鳴を上げる間もなく、フェイトはそのまま気絶した。
『あれ? ふぇいとー? ねぇねぇ、どうしたのさー。んー、眠たかったのかなー。ま、いいや、今のうちにもっと狩っておこー!』
●
※雷刃ちゃん取り扱い説明書より抜粋
雷刃ちゃんは高度な感情表現能力を有しており、返答を求められると元気よく返事をしますが、実際にその通りに稼動する命令実行能力はありませんのでご注意ください。
幼児向け注意書き
雷刃ちゃんはちょっとあほの子だから出来ないことでも元気よく返事しちゃうゾ♪
TO BE CONTINUDE
●
『…………第二話にしてまったく出番が無かった気がします』
「星光さんかわいいよー! かわいいよー!」
『やめてください、マスター』
●
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