魔法少女リリカルティアナ 第1話 【それは不気味な出会いかな】
自分に特別な力なんてない。
それを思い知らされたのは機動六課に所属してからだった。
別に自慢するつもりはないのだけれど、陸士訓練学校でもそこそこの成績を収められたし、陸士隊に入隊した後も順調に仕事をこなすことが出来た。
だけど、その時周囲にいたのはおそらく私とそれほど変わらない人たちばかりだった。
そういった世界とはあまりにもかけ離れた存在がいることを私は知りもしなかった。
もう一つ上の存在。
特別な力を有し、努力することを怠ることなく、ひたすらに自分の理想へと駆け上がるそんな人々。
それは私のすぐ傍らにも居たんだけど、その時は変わった奴だとしか思ってもいなかった。
でも、違う。機動六課に出向し、自分の周りがそうした特別な人々によって出来た時――私は取り残された。
自分には上へ昇るために必要な特別な力や才能なんてないんだ――そう言って自暴自棄になってしまった。
今思えば、それはなんとも恥ずかしい子供の戯言だ。
才能や資質なんてものに嫉妬して、拗ねていただけのバカな言動。
今、こうして思い出しただけでもかつての自分を殴り飛ばしたくなってくる。
けど、そのおかげで解ったことも確かにあった。
夢を追うために必要な事は、才能や力などではない。
それは弛まぬ鍛錬と……確固たる意思の力。
どれだけ躓いても、どれだけ転んでも、それでも前を見てけして諦めない思い。
それを胸に秘め、自分の今出来ること、自分がやれることをしていけばいい。
私は、そう教えられた。
魔法少女リリカルティアナ、始まります。
●
「二十九、三十、三十一、三十二――」
カウントと共に腕を振るスピードは加速していく。
宙に浮くポイントターゲットは常に自分から逃げるように動き続けている。
それを最小限の動きで捕まえ、銃口とターゲットが重なる瞬間に引き金を引く。
動きが止まることはない。
魔力量の関係でティアナは自分が強力な魔力砲を撃つには適していないことは理解している。
なら、どうすればいいか。簡単な話だ、下手な鉄砲と言うわけではないが数を揃えるしかない。
自分の役割はセンターガード。しかしセンターガードと一口に言っても戦い方は様々だ。
中遠距離からの広域魔力砲による直接支援、アタッカーを攻撃の要とし援護攻撃を行う者。
ティアナはどちらかと言えば後者だ。ゆえに考えることはどうすればアタッカーが自由に動くことが出来るか。
弾幕を張り、銃撃を続ける。
必殺の一撃には到底ならないが、それでいい。
「――四十九、五十!」
言葉どおりの数だけ引き金を引き、ティアナは動きを止めた。
宙を待っていたターゲットもその姿を宙に溶け込ませるように消す。
現れたホログラムウィンドゥに現れた成績は命中率が八割を超えていることを告げていた。
「ふぅ……まだまだね」
一つ大きく息をつきながらウィンドウを消す。不満げな口振りであったがその成績事態はけして悪いものではない。
それに今ティアナが握っているのは自分のデバイス、クロスミラージュではない。
かつて彼女が愛用していたアンカーガンだ。基本的に両手に一丁ずつ持つクロスミラージュとは違いワンハンドでこの成績は僥倖と言っても差し支えないだろう。
しかし、なぜわざわざアンカーガンを使用していたのか。
それは今朝急にクロスミラージュをオーバーホールしたいとシャーリーから頼まれたからであった。
そうしてクロスミラージュを渡したはいいが、手持ち無沙汰になったティアナは久々に己の愛銃。兄の形見でもあるアンカーガンを手入れでもしようかと引っ張り出したのであった。
もちろん、暇があれば常に磨いていたりはするのだが流石に最近は忙しくて本格的な分解整備などは怠っていた。
これを機会にとシャーリーから工具を一式借りて、本格的にアンカーガンを整備した彼女は動作確認のためにと、先程のように訓練プログラムを走らせていたと言う事情である。
軽く内部機構の点検をしてからアンカーガンをホルスターに戻したティアナはうん、と大きく伸びをして溜まった疲れを吐き出すように吐息を一つ。
気付けば結構な時間が経ってしまっていた。手に馴染む銃把の感覚は時間のそれも崩していたようである。
「それにしても、なんか妙なタイミングだったわね、ま、おかげでそこそこ充実した休日が送れたわけなんだけど……」
軽く柔軟を繰り返して思い出したかのようにティアナは呟く。
本来ならばオーバーホールなどの時間の掛かる整備作業は事前にスケジュールが組まれてから実施される運びとなるはずだ。
ここ数日の間目立った作動不良なども起きなかった筈だ。それなのになぜこのタイミングで分解整備なのか。
もしかしたらクロスミラージュの方から申請したのかもしれない。
ティアナはスバルと違って、あの無口な相棒とはあまり会話と言うものを交わしたことがない。
もちろん、戦闘中に齟齬が生じることなどはない。会話をしなくても伝わることはあるし、ティアナとクロスミラージュの相性が悪いと言うわけではけしてない。
それでも言葉にしないと伝わらないものがあるのではないだろうか。
整備から帰ってきたら、少しばかり無駄に会話を交わしてみるのもいいかもしれない――そんな風にティアナが隊舎への道を進もうとしたところで、
「あー、キミキミ。ちょっと待ちたまえ」
あまり馴染みのない、しかしどこかで聞いたことのある声がティアナの耳に届いた。
何気なく振りかえるティアナ。しかし周囲を見渡しても何処にも人影はない。
確かに声をかけられたはずなのだが、と首を傾げたところで再び声が響いた。
「ここ、ここですよ」
声はティアナの足元から聞こえてきた。
特に何も考えることなく自分の足元へと視線を動かすティアナ。
後に彼女はこう考えることになるだろう、まっすぐ隊舎に帰っていればよかったと……
ティアナの足元にはフェレットがいた。
「………………」
嫌な予感がする。果てしなく嫌な予感がする。
魔法などと言う技術が跋扈する世界。今更喋る動物の一匹や二匹珍しくもなんともないが、それを見た瞬間、機動六課に出向してから幾たびも経験し研磨されてきたティアナの第六感が、あ、ヤベェと告げていた。
すぐさま回れ右をして何もかも見なかったことにする。
しかし、既に視線はばっちりと重なってしまっていた。
「あー、逃げない逃げない。大丈夫。けして悪いようにしないからさ、ねっ、ちょっとお話だけでも聞こうよ?」
いつの間にかティアナの肩にフェレットがよじ登っていた。
「い、いやぁ。なんかすごく悪い予感がするから遠慮しておきます! 折角アバンからここまで若干とはいえ真面目気味に来たのにここから坂道を転げるように悪い方向へ行くのが目に見えて解りますので全力でお断りします!!」
天才的な直感だった。
「やだなぁ、そんな人を悪徳セールスマンか何かのように。大丈夫大丈夫、ここではいつものことだからさ、ねっ?」
ぶんぶんと身体を捻ってフェレットを振り落とそうとするティアナだが、フェレットはしがみついて離れない。
暫しの間、そうして服の中に入り込んだ害虫か何かを払うように身悶えるティアナだが、フェレットはまるで離れやしない。
結局、先に折れたのはティアナの方であった。
「ぜぇ……はぁ……」
肩で息をしながらその場に座り込むティアナ。ここは恐らくへばってしまったティアナではなく、それでも涼しい顔で肩に乗っているフェレットの方を褒めねばならないだろう。
「さて、それじゃあ落ち着いたところで話を進めようか」
「……なんなの、いったい」
突然の不条理に肩を落とし溜息をつくティアナ。しかし既に自分は引き返せないところまで来てしまったようである。
「まぁまぁ、そんなに悪い話じゃないからさ……ほら、これを届けにきただけなんだよ」
肩から器用に地面へと降り立ったフェレットは、そう言うと何処から取り出したのか一抱えほどもある――とはいっても体長三十センチ程度のフェレットから見たスケールで人間で言うなら掌サイズの――カード状の物体を掲げる。
それを見た瞬間、ティアナはものすごい勢いでそのカードを取り上げ、その表面をまじまじと見詰める。
「え……これって、クロスミラージュ?」
疑問系の呟き。彼女がそういいたくなるのも無理はないだろう。
なぜならば、今朝までエックス字を描いたシンプルなデザインのカードだったのに、なぜか今はその表面にはハートマークがでかでかと描かれている。全体的な色調もピンク色になってしまっている。
しかし、これは確かに自分のデバイスだ。触れなくても見れば解る。この数ヶ月の間ずっと共に歩んできた相方なのだ。間違えるはずがない。
それでも、いや、それだからこそ、
「な、な……なんでこんなことになってんのよっ!!」
愕然と呟くティアナ。そんな彼女の前でフェレットは仰々しく忍び笑いを漏らしていた。
「くっくっく、案ずるな少女よ。変わったのは見た目だけじゃない、彼は既に大いなる進化をぶげらっ!」
フェレットが喋ってる途中で踏み潰された。
「ギ、ギブギブッ!! ちょ、まじ苦しいですって、中身でちゃう、中身ッ!」
「とりあえず私は誰かみたいに即実行ってワケじゃないから聞いておいてあげるわね、すぐに元に戻しなさい」
冷めた視線で足元の小動物を睨みつけるティアナ。機動六課に出向してからどこかに容赦と言うものを置き忘れてきたようである。
「え? そりゃあ無理だよ。なにせ基本フレームから弄ってるからねーって体重掛けないでホントにマジで!!」
じたばたともがき苦しむフェレット。ティアナは既にかなり重心をそちら側に傾けているのだが、見た目と違ってかなり丈夫に出来ているようである。
「……じゃあ、質問を変えるわ。なんでクロスミラージュがこんな有様になってるワケ? と言うかシャーリーさんに渡したはずなのになんでアンタみたいなのが持ってるの?」
「ふふふふふ、ようやく話を聞く気になったか小娘が。いいか、それは既に通常のデバイスではな――ごめんなさいごめんなさい、尊大な態度とかもう取りませんから出来れば体重を地に足がついてるほうに移してください」
涙目で懇願するフェレット。とりあえず話を聞かなければ状況が進まないと察したティアも心持ち体重をフェレットとは反対方向に移す。
「実は私こう見えてもただのフェレットではございません。まぁ出自までは明かせませんがさる研究機関の一員とでも申しておきましょうか」
急に従順な口振りになるフェレット。軽い、何やら果てしなく軽い。
「実は今回、その研究機関にて発見した新機軸の魔法技術を是非、この機動六課の中でも優秀でいらっしゃるティアナ嬢にご協力いただいてデータを習得していただけたらなと思いまして、やったねテストデバイサーですよ、エリート街道まっしぐらですよ!!」
急にティアナを褒め称えるフェレット。しかしティアナの表情は何処までも訝しげなものだ。
「テストデバイサー? 本人に何の話も通っていないのに? しかも優秀って機動六課には他にいくらでも優秀な人材がいるでしょうよ?」
「いやまぁ、そこはほら特殊な能力持っている人よりバランスの取れた能力を持ってる人がテストケースとしては相応しいというかなんと言うか……あ、怪しくない、怪しくないよ!? ほら、ちゃんと部隊長さんの許可も貰っているし」
そう言いながら、やはり何処から取り出したのか不明だが筒状に丸められた書類を取り出すフェレット。
ティアナがそれを広げてみると、確かにティアナを対象として新型デバイスのテストを行う旨を許可するサインが描かれている。筆跡も確かに八神部隊長のものだ。
「……でも、なんで正式な命令が来ないわけ。それに、こういうのってもっときちんとした研究施設とかでやるもんじゃないの?」
それでもなお不審げな表情を崩さないティアナ。足元ではフェレットが顔を背けてぶつぶつと何やら小声で呟いていた。
「そりゃあ使ってるのはロストテクノロジーの固まりだし、んなもん使用してるってバレたらどんな目に遭うか……」
「なんか言った?」
「イイエ、ナニモイッテオリマセンヨ? さぁさぁ、ではまぁとりあえず使用してみましょうではないですか、ねっ、ねっ!!」
そう言って期待に満ちた目でこちらを見上げてくるフェレット、なんだかその期待に満ちた眼差しが嫌だ。
「ところで、最後に一つ聞いておきたいんだけど……」
「はい? まだ何かあるの?」
「なんでハートマークなワケ? これも新技術とやらに関係あるの?」
諍いの種となったクロスミラージュを掲げて尋ねるティアナ。フェレットはとてもいい笑顔で答えた。
「ううん、それは単に僕の趣m――」
――ぐちゃぱぁ、という生で聞いたら一生のトラウマになりそうな音がティアナの足元で響いた。
「うーん、とりあえず事実確認をして、それからシャーリーさんに頼んで元に戻してもらうのが一番かしら」
呟きつつ、平然とその場から立ち去ろうとするティアナ。
「ま、待てぇ!! なんだ最近の魔法少女は随分とセメント思考だなぁ、おい!! 僕だから良かったものの、下手したら動物保護団体から訴えられるよコレ、ちょっとおい聞いてるのか!!」
しかし、背後からやたら元気そうな声が聞こえてくる。ティアナが嫌そうに振り返るとそこには――詳しい表現がしにくい物体がグニグニと蠢いたいた。
「うわぁ、すごいグロテスク……」
「誰の所為だよ、誰の!!」
「てゆーか、何で生きてるわけ?」
「ふふん、こういうことが起きるだろうと予測しておいて既にダミーの骨を仕込んでおいたのさ」
「なにそのとってつけたかのような設定? てゆーかこの場合関係ないでしょソレ」
呆れたように呟くティアナだが現実問題としてなぜかピンピンしているようである。このフェレ――モザイク状の物体は。
「まぁ今はそんなことより、ほら早く変身だ。変身! ハリーハリー!!」
「嫌よ、こんなわけのわからないもの事実確認もせずに起動できるわけないでしょうが!!」
あくまでも正論を述べるティアナ。しかしそのようなものこの目の前の物体に通じるわけがなかった。
「ふふふふ、無理矢理と言うのはあまり好きではないのだがこうなっては仕方がない」
「な、なによ……やろうっていうの?」
思わず一歩後退するティアナ。まぁ何の危険もなかったとしてもこんな不気味な物体に凄まれれば誰だって忌避したくなるだろう……そういう風にしたのはティアナ本人なのだが。
「実はそのデバイス、遠隔操作でこっちからでも勝手に起動できるように工作しておいたのだ! ハイ、そんなワケでセーットアップ!!」
「ぬわぁ、この卑怯者ぉ!!」
モザイク状の物体――面倒なのでモザ――の言うとおり、ティアナが何かしらの文句を並べる前に光がクロスミラージュから生まれた。
バリアジャケットの転送が始まったのだ。
装着自体は一瞬で完了。眩いばかりの光が収まりティアナが瞼をゆっくりと開く。
「ん……あれ? 別になんともない……?」
起動した瞬間、大爆発とかそんなオチを想像していたティアナは別段異常を感じられない己の身体に逆に不安を覚える。
「――って、なんなのよこれぇ!?」
そしてその不安は概ね当たっていた。
今、ティアナの身を包んでいるのは先程の訓練服ではない。魔力で編まれたバリアジャケットである。
しかし、その意匠がいつもと違う。なんと言うか完全に別物である。
なんと表現したらいいか解らない。あえて一言で言い表すならば少女趣味とでも言うのか……無駄にリボンとフリルが取り付けられたドレス姿であった。
通常のティアナのバリアジャケットとはどう考えても対極のデザインであるし、どう考えても戦闘向きの物ではない、このまま舞踏会にでも駆け込めそうな格好だ。
恥ずい。何はともあれ恥ずかしい。
確かにキャロやヴィヴィオと言った十代前半やそれ以下の少女ならば着ていてもそれほど不思議ではない格好だが、ティアナの場合ギリギリと言うかなんと言うか……ぶっちゃけコスプレにしか見えない。
「ほほぅ、うんいいよいいよぉ、なかなかにステキじゃあないか。トウが立ってるから似合わねーかなぁとかおもってたけど、うんコレはコレでなかなぎべらぁ!!」
べらべらと人の神経を逆撫でするコメントを述べるモザを手に持っていた手頃なモノでぶちのめすティアナ。
そこでようやく自分が先程から何か手に持っている事に気づいた。
それは先端に星飾りがついたステッキだった。一般的なミッドチルダ式ではベーシックなのは杖状のデバイスだが、それとはまた別。それより明らかにチープに出来ておりまるで子供のおもちゃのようである。
「こ、これはまさか……」
そのステッキを見ながら愕然と呟くティアナ。その正体をアッサリとモザは言葉にした。
「そう、それこそが君の新デバイス。その名もスーパークロスミラージュげぱぁ!!」
「安易に頭にスーパーとか乗せるなこのゲ○状物体!!」
スーパークロスミラージュで何度も何度もモザを殴打するティアナ。
フリルたくさんの可愛らしい格好の少女がステッキで謎の物体を殴打するたびに血飛沫が舞い散る様は、なんと言うかかなり倒錯的な絵ではあったが、文字媒体のおかげで幾分か和らげることに成功した。
「う、うう……とりあえず年頃の乙女が○ロ言うのはどうかと思うんだけど、そこらへんはどうお考えなのかな?」
「知るか!! ああまったく……酷い目にあったわ、とりあえず、こんなものさっさと解除して…………ん?」
とっとと元の状態に戻ろうと意識を向けるティアナ。通常ならばそれだけでデバイスは待機状態へと戻り、バリアジャケットも消失する。だが……、
「いいかげん理解したらどうだい? すでにそのバリアジャケットには一定量魔力を消費しないと解除されないように細工済みさ!」
「………………もう突っ込む気力も失せたわ。とりあえず戻しなさい、今すぐ戻しなさい、さっさと戻しなさい」
「わ、解った解りましたからスーパークロスミラージュを振り上げないで!」
「スーパー言うな!!」
流石に度重なるバイオレンスにがたがたと震えながらモザが指を振ると、彼等のいる位置から十メートルほど離れた位置に案山子のようなターゲットドローンが出現する。
「さっきも言ったように一定魔力を消費しないと解除されないから、とりあえず魔力弾の一発でも撃って発散しちゃおう、そうすれば君は元に戻れる、僕は必要なデータが取れる。二人とも幸せになれるんじゃないかな?」
なぜか疑問系で締めるモザ。そんな彼の様子に訝しげな表情をティアは浮かべるものの。このままではどうしても埒が明かないと理解したのか不承不承、ターゲットドローンの方に向き直った。
「解ったわよ……ところで、これどうやって使えばいいわけ?」
かつての拳銃を模した形状から遥かにかけ離れてしまった己のデバイスを眺めながらティアナが呟く。
「ああ、大丈夫大丈夫。見た目が変わっただけで内部の構造とかはそれほど変わってないから、今まで使えていた魔法は全部使えるよー」
それもある意味どうなのかと思いながらも、ティアナは大人しくスーパークロスミラージュの先端をとりあえずターゲットへと向ける。
選択魔法はシュートバレット。魔力を弾丸上に形成し射出する射撃魔法の中では基本中の基本である。
普段であれば意識するだけで放てる類の魔法だ……しかし、スーパークロスミラージュは何の反応も示さない。
ティアナも首を傾げながらスーパークロスミラージュを上下に振ってみるがやはり無反応。
そんな様子を傍らで見ていたモザがしょうがないなぁと言う風に説明を付け足す。
「あ、このデバイスは完全に音声入力方式にしてるから声に出さないと魔法は発動しないよ――」
「それって明らかに劣化なんじゃないの? まぁいいわ、えっとそれじゃあシュートバレット?」
疑問系で呟きティアナ。言いなれていないのでやはりどこかぎこちない。
しかし、それでも魔法は発動しない。
「ああ、違う違う。魔法少女仕様だから呪文の前にちゃんとリリカルマジカルって言わないとダメじゃないか」
「んなトチ狂った言動言えるわけないでしょうが!!」
顔を真っ赤にさせて反論するティアナ。流石に彼女にだって出来ることと出来ないことがある。主に矜持的な問題で。
「いやぁ、まぁ僕は別にいいんだけど……魔法を使わないとずっとそのままだよ? へぇ、その格好を人に見られてもいいんだぁ、僕はやだなぁ、そんな趣味持ってるなんて思われたら生きていけないなぁ」
だが、ここぞとばかりにいやらしい笑いを浮かべて呟くモザ。何処までも計画的犯行であった。
「ひ、一段落ついたら絶対にブチのめす…………り、りりかるまじかるシュートバレット」
蚊の鳴くような声で呟くティアナ。もちろん魔法は発動しない。
「ほらほら、もっと大きな声で叫ばないと!」
「――――くぅっ!! リ、リリカルマジカルッ!! シュートバレット!!」
やけくそ気味に叫ぶティアナ。だが、やはり発動しない。
「ダメダメ! もっと愛らしく可憐な少女のように! 具体的に言うと語尾に♪をつけるような感じで! 本当はハートマークがいいけど文字化けして使えないからさ!」
「ぬわぁー!! リリカル♪ マジカル♪ シュートバレットォォォォォォ♪」
ティアナがキレた。ありとあらゆる意味で。
しかし、その甲斐はあったようだ。ティアナの言葉に反応しスーパークロスミラージュが眩い光を放つ。
そして――――轟音が響いた。
スーパークロスミラージュの先端から生まれた光は、瞬時に極大化。
一条の閃光と化した魔力は魔力砲を思わせる程に膨れ上がり、斜線上にあるありとあらゆる物を飲み込んだ。
当然、ターゲットドローンも光の奔流に飲み込まれる。
だが、そんなもの始めから無かったかのように光は直進を続け、そのまま遥か先にある六課隊舎へと爆進。
ストロボフラッシュか何かのように眩い光が生まれたかと思うと、次の瞬間大爆発を起こした。
恐らく着弾地点であろう場所からは、物の見事なキノコ雲が生まれていた。
大惨事である。
撃った張本人であるティアナは唖然を通り越して表情を青くしたまま固まってしまっている。
その傍らでモザは空に浮かぶキノコ雲を見上げながら、
「あれー? 出力調整間違ったかなぁ、失敗失敗。てへっ」
可愛らしく舌を出していた。
「――し、失敗じゃないわよ! 何なのあれ! てゆーかなにこの威力。バカじゃないの、あんたバカじゃないの、ねぇバカじゃないの!?」
同じ内容で三度問いかけるティアナ。未だに動揺しているのか、それともそこまで確認しておきたいことなのか。
どちらにしろモザはまるで気にした風もなく、
「大丈夫、非殺傷設定だから!!」
「大丈夫じゃねー!? 何、それつけたら万事解決するとでも思ってるの? ねぇ、ちょっとオイッ!!」
がくがくとモザをゆするティアナ。グロテスクな形状だとかそういうのはもう気にならないくらい動転しているらしい。
「まぁまぁ、そんなことより、今はアレをどうにかしたほうがいいんじゃないかな?」
「あれ?」
明後日の方向を指差すモザ、それに釣られるように視点を動かしたティアナは空中に浮かぶソレを目にして固まった。
「さっき、こっちの方から冗談じゃ済まされない砲撃が飛んできたんだけど、犯人は誰なのかな、誰なのかな?」
エクシードモードの高町なのはであった。
「え……あの、なのはさん、こ、これはですね」
言い訳の言葉を並べようとするティアナ、だがそれを遮り、なのはは底冷えのする口調で呟いた。
「まぁ、そんなことより何より、さっきからすごく昔の私がバカにされていたような気がするの……とりあえず頭冷やそうかなの?」
ティアナの顔から更に血の気が引いていく、感とか経験とかではなく絶対的な事実として『あ、死んだな私』と観念していた。
●
魔法少女リリカルティアナ 第一話 『それは不気味な出会いかな?』
次回予告!!
迫り来る白い魔王の恐怖。
モザがティアナを選んだ理由とはいったい!?
迫り来る圧倒的な脅威とは!?
そんなことよりティアナは果たして生きて明日の朝日を拝めるのか!?
魔法少女リリカルティアナ 第2話 『激闘リリカルティアナVS白い魔王かな?』にリリカルマジカル!!
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