魔法少女リリカルティアナ 第4話 【ライバル?もうひとりは鉄腕魔法少女かな?】





 ダッシュ! ダッシュ!! ダンダンダダン!!
 ダッシュ! ダッシュ!! ダンダンダダン!!
 ダッシュ! ダッシュ!! ダンダンダダン!!


 ウイングローッドダーッシュ!!



 魔法少女リリカルティアナ(タイトル)



 私はなーみーだをながさないー

 ロボットだからー 戦闘機人だーからー

 だーけど解るよー 萌えるスバ×ティア(友情と読もう)

 きーみーといーっしょに 魔王撃つ

 必殺ぱわぁー リボルバーナッコォッ!

 それでも頭を冷やされるー クロスファイアシューット 打ち落とされーるー

 私はマジカル マジカールすばるんー♪






「って、なんなのよコレは!?」
 何処からともなく流れてくるBGS。予め録音された物なのか、ティアナのツッコミも空しく、なにやらやけに熱の篭った歌が朗々と流れる。
『んむ? この世界ではライバルの魔法少女がOPソングを歌うのが定番だと聞いていたが?』
 前回ティアナに投げ飛ばされたスパクロがステッキの身体をしならせながら、近くの茂みから現れる。どうでもいいことだが自立稼動も出来るようだ。
「オープニングソングってなによ! てーかパクリじゃないの! そして歌詞の内容がなんで原作の八話を元にしてるのよっ!!」
 流れるようなツッコミの三連打。どうやらティアナもようやくこの類のシチュに慣れてきたのか持ち前の特技を生かしに来たようである。
『ふ、なぁに安心しろ。EDは主人公が歌うのがお決まりだ』
「そのセリフで何を安心しろって言うの……」
 しかし、まるでこちらの話を聞いていないスパクロ。ティアナは疲れたように肩を落とす。
 そして、そのまま彼女は視線をズラし、新たな闖入者の方へと視線を向けた。


「それで、アンタも何してんのよ、スバル」


 その彼女の視線の先には、もう一人の魔法少女の姿があった。



 魔法少女リリカルティアナ 第4話 【ライバル?もう一人は鉄腕魔法少女かな?】



 ●



 改めて、その闖入者をティアナは眺めた。
 なんと言うか、酷い。自分も人のことは言えないが、その格好は酷い。
 目の前の空色の髪をした少女はティアナが今着ているものと同様のデザインコンセプトで作られたのか、少女趣味と言うかなんと言うか全体的にヒラヒラしたフリルで装飾されたバリアジャケットを身に纏っている。
 そこまではいい。いや、それだけでも随分と倒錯した姿ではあると思うが、一連の出来事を体験したティアナにしてみれば、その程度では異常と認識できなくなっていた。
 慣れと言うものは恐ろしい。
 それはさておき、それでも続く特徴には流石にどうかと頭を捻らざるをえない、ティアナのクロスミラージュがステッキ状――まるで嬉しくはないが、その服飾に一応形を合わせているのに対して、なぜか彼女の右腕を覆うリボルバーナックルはそのままの状態だ。
 母親の形見を弄るのもどうかということだろうか、しかしその剛健さがひらふわな服装と全く合っていない。
 加えて、一番の異常……それが足下にあった。
 ティアナの記憶を辿れば、そこには彼女の相棒でもあるローラーシューズ型のデバイスが存在するはずだ。
 だが、なぜかそこにはローラーシューズではなく……鉄ゲタが履かされていた。
 それはギャグか、ギャグなのだろうか。
 大真面目な表情で腕を組み、着地点に仁王立ちするそんな少女にティアナは声をかける。
「それで、アンタも何してんのよ、スバル」
 どこまでも呆れた声音での質問。だが何故か相手のほうはやけにノリノリな感じでティアナの方をビシリと指差しながら高らかに吼えた。
「ふふふ、私はスバルじゃありません。私の名前は鉄腕魔法少女マジカルすばるん」
 本人は胸を張って宣言したつもりなのかもしれないが、なにやらセリフが果てし無く棒読みであった。演技力がゼロである。
「恥ずかしくないの、アンタ」
 そんな彼女に冷静にツッコむティアナ。長年連れ添った相手だからかツッコミにも容赦と言うものが微塵も存在しない。
 途端にスバル――ではなく自称すばるんは涙目になる。
「ううー、酷いよティアー。私だって頑張ってるんだからー」
 いつもの様子で、イジケルように呟くスバル。どうやら中身はいつもと同じようである。
 だが、いつもの空気を形成しようとする間に静謐な声が響き渡った。
『すばるん……相手のペースに飲まれてはダメよ。私達がここに何しに来たのかを思い出しなさい』
 矛盾しているかもしれないが、なにやら無駄に高貴な雰囲気を持っているのに、努力とか根性とか言う単語が似合いそうな声である。
 声の発生原はすばるんの足元、例の鉄ゲタからであった。
 もはや鉄ゲタが流暢に喋ったところで微塵も驚くことのない自分の感性にティアナは辟易する。
「あ、うんごめんねグレートマッハキャリバー」
「また、微妙なネーミングセンスっ!」
 けれどすばるんの言葉に律儀にツッコむティアナは実は良い子なのかもしれない。
『すばるん、私のことはそう呼ばないで』
「あ、そうだったね。ごめんなさい、お姉さま」
「そしてお姉さまって何よっ、また微妙なキャラ付けって言うか、ギンガさん泣くわよっ!」
 全力でツッコんだあと、息を切らして肩を上下させるティアナ。なにがここまで彼女を駆り立てるのだろうか。
 そんな彼女をすばるんたちは不思議そうな表情で眺めている。
「ティアー、なんでそんなに全力で今を生きてるの?」
「誰の所為よ、誰の!!」
 自分の相方だからだろうか、すばるん相手では自然と身体が突っ込んでしまうようになっている様子である。
「ぜぇ……はぁ……、それで結局アンタはなにしに来たのよ、つーか誰に騙されたわけ?」
 このままでは疲労困憊で死んでしまうと感じたティアナは、やや強引に話題転換――というか話の筋を元に戻す。
 しかし、そんなティアナの言葉にすばるんは一度、え、と目を瞬かせた後。小さくボソボソと自分の足元に声をかける。
「マッ……じゃなかった。お姉さま、この後ってどういう展開だったっけ?」
『台本の三十六ページにあるわ』
 言われたすばるんは、バリアジャケットの懐から『魔法少女リリカルティアナ 第四話』と書かれた台本を取り出したかと思うと、それを捲りながら呟く。
「あれー? ないよ、どこらへんなの?」
『すばるんとティアナの初邂逅のところよ……まったく、スバルったら本当にドジなんだから』
 うふふふふ、と鉄ゲタから可憐な笑い声が響いてくる。
「あー、あったあったここだよ。え、えっと、それじゃあ……」
 そう言ってティアナのほうに振り向くすばるん、しかし視線は目前に掲げた台本に注視したままである。
「わ、私の名前は鉄腕魔法少女マジカルすばる――」
『すばるん、そこはもう既にやったわ』
「わわっ、えっとえっと……右手を掲げてティアナを指差す、すばるん――」
『そこはト書きよ、すばるん』
 ひええぇ、と悲鳴を上げながらあたふたと台本を繰るすばるん。そんな彼女の対面でティアナは力尽きたかのようにその場に膝を着いていた。
 ぐだぐだだ。ぐだぐだすぎる。もはやツッコむ余地がありすぎて、どうしようもない。
 それ以前になんなんだ台本って、脚本家がいるのか。とりあえずソイツを連れてきて欲しい。ブン殴るから、マジ殴るから。
 そんな風に心の中だけだが、律儀に突っ込んでいるとようやく持ち直したのか再びすばるんがこちらを指差した。逆の手は台本を握ったままではあったが。
「あ、あなたに話すことはありません。これは私の仕事です、邪魔をするなら容赦はしません」
 やはり棒読みのセリフで呟くすばるん。結局何がしたいのかサッパリだが、もはやどうでもいいと言う気持ちがティアナの大半を占めていた。
「あっそう……それじゃあ頑張ってね。私は帰らせてもらうから」
 とりあえず、もうこれ以上関わり合いたくない。今日のことは寝て忘れてしまおうとその場から立ち去ろうとするティアナ。
 けれど、すばるんはやはり台本に目を落としたまま、
「言った筈です。あなたに話すことなんてないと」
 話が噛みあっていない。見ればすばるんも不思議そうに首を捻っている。
「あれー? ちがうよティア。そこは『そんなこと急に言われても解らないよ、お話を聞かせてよ』っていうシーンだよー。もうティアったら忘れちゃったの? 台本貸してあげよっか?」
「なんで私のセリフまで記載されてんのよっ、てーかなんでその陳腐な脚本どおりに話を進めなきゃならないのよっ!」
 仲間を見つけてやたらと嬉しそうなすばるん、そんな彼女から差し出される台本を叩き落しながら叫ぶティアナ。すばるんは涙目でそれを拾い上げながら叫ぶ。
「ああーっ、ティア酷ーい。いいもん、そんなに言うんだったら台本見せてあげないから」
 そういって大事そうに台本を抱えるすばるん。ティアナはズキズキと痛む頭を抑えながら疲れ切ったように呟く。
「あー、もういいわよ。好きにしなさいよ。けど私まで巻き込まないで、本当にお願いだから」
 半ば懇願のようなかたちで頼み込むティアナ、まだほんの数時間しか経っていないのに随分とハードな内容だったために既に疲労困憊である。
 ぶらぶらと手を振りながら、改めてその場を後にしようとするティアナ。
 そんな彼女の背後から、すばるんの詰まらなさそうな声が響く。
「いいよーだ、それじゃあ私一人で話を進めるんだから……えっと――貴女に関わっている暇はないの」
 再び台本に書かれたセリフを呟き始めるすばるん。それはこっちのセリフだ、とツッコみそうになったが、それをグッと我慢してティアナはその場からさっさと退散しようとする。
「邪魔をするなら力尽くでも退いてもらいます……叫びながらティアナを攻撃するすばるん――あっ、これもト書きだった」
 慌てたように呟くすばるん。だが、そこに含まれている危険極まりない単語にティアナは思わず振り返る。
「ちょっと、まさかそれで私を巻き込むつもりじゃ――」
 そう言い掛けた瞬間だった。すばるんは一度大きく息を吸い込むと、裂帛の気合で両手両足を広げながら叫んだ。
「いくよっ、ネェェェェェェブルッッ、レェェェェェェェザァァァァァァァァッッッ!!」
 瞬間だった、剥き出しのすばるんの“へそ”からノーチャージで極太のレーザーが発射、ティアナに向けて大地を削りながら爆進する。
 射線上に存在する物を残らず飲み込み、消滅させながら進行するレーザー。
 数秒間もの間照射され続けたレーザーは、ゆっくりとその余波を残しながら消えていく。残ったのはレーザーの直径に合わせる様に球状にくりぬかれた大地と、焦げた大気の匂いだけだ。
 ティアナは――なんとか生きていた、と言うべきだろうか。呆然と立ち尽くした彼女の右隣にはレーザーの焦げ痕がありありと残っている。避けたわけではない、相手の攻撃が外れただけだ。
 しかし、それを驚愕の表情で見つめながらティアナは打ち上げられた魚のように口を開閉しながら呆然とした表情を浮かべている。
「――って、なんなのよこれは! 殺す気かアンタッ!!」
 しかし、瞬時にツッコむことの出来る彼女は見事としか言い用がない。いや、もしかしたら条件反射的に身体が反応しただけなのかもしれないが天賦の才に恵まれているのは確かだろう。
 だが、それに対しすばるんはまるで悪びれることなく、むしろ朗らかに笑いながら、
「大丈夫だってティア……これは非殺傷設定だから」
「嘘をつけぇ!! 完全に地面が消し飛んでるじゃないの! なに? そういえばすべてが解決されると思ってるの、便利な言葉ねぇちょっとオイ!!」
「えー、だって原作でもこんな感じ――」
『すばるん、それ以上言うと色々なところからクレームが来る可能性があるから、この話題はここら辺にしておきましょう』
 すばらしいタイミングで諌めてくれるグレートマッハキャリバー。ありがとう、本当にありがとう。
「あっ、そうだね……えっとティアー。物語の展開上、ここは私の魔法の直撃を受けて気を失うってシーンだから、次は直撃させるからちゃんと気絶してねー」
 話をうやむやにしつつ、それでも続けようとするすばるん。流石にティアナも黙ってなどいられない。
「魔法? いまさっきのレーザーの事を魔法っつったかコラァッ! あんなもんの直撃を受けたら気を失うどころかチリ一つ残さず消し飛ぶわっ!」
 興奮のあまり喋り方が乱れてる、というか無駄に男っぽい仕様になっているティアナ。
「えー、でも、ここは魔法少女であるリリカルティアナが始めての敗北に挫折し、それでも立ち上がる事によって視聴者のハートをグッと掴む良いシーンなのに……」
「だから敗北も何も直撃したら、次がないって言ってんのよ」
「あははは、心配性だなぁティアは大丈夫だって――――非殺傷設定だから」
 やばい、目がマジである。まともに会話が成り立っていない。
 このままでは自分の命が危うい、と感じたティアナは足元に居たスパクロを拾い上げる。
「……こうなったら果てし無く不本意だけど、あのバカを止めるしかないわね」
『おおう、久しぶりの出番か。忘れられていたかと思ったぞ』
 セリフを久々に与えられてなにやら上機嫌のスパクロ。本当ならばこれもその場に置いたままここから逃げ出したかったが、そうも行かなくなってしまった。
「とりあえず、威力だけを見ればあの子と私のデバイスは同等。だったらそれぞれの砲撃で相殺して隙を見せたアイツを黙らせる……いけるわね、ス、スーパークロスミラージュ」
 自分の手元に居るステッキに対して恥ずかしげに呟くティアナ。本来ならばそんなこっ恥ずかしい名前で呼びたくはないが、ここで前回のように機嫌を損ねられては困る。
 なんだか自分の倫理観も回を追うごとにガラガラと音を立てて崩れていっているようで、ティアナは一刻も早くこの不思議空間から脱出しなければと改めて思った。
 しかし、当のスパクロは何故か難しそうに頭を捻っていた。形状がステッキな所為でいまいちよく分からないが、悩んでいるように見えなくもない。
「ど、どうかしたの?」
 そんなスパクロの様子に懸念の声を上げるティアナ。認めたくはないがスパクロの協力が無い限りこの窮地を脱出することは難しい。
『ん? うむ、別に大したことではないのだが、少々問題が生じてな』
 呟かれる言葉は以外に真摯なものだ。もしやなにか重大な欠陥があるのだろうか――そんな考えがティアナの脳裏を巡ったが、思考を纏める暇はなかった。
「それじゃあ行くよティアー」
 すばるんが、視線の先で身構えるのが解った。来る。先程と同じ砲撃が繰り出されるはずだ。
 迷っている暇はなかった、あのレーザーが相手では後に撃ったのでは間に合わない。最悪でも同時に放たねばならない。
 そう判断したティアナはスパクロを振り上げる。
「とりあえず迷ってる暇はない。今はこの一撃を防ぐ……いくわよっ。クロスファイア♪ シューット♪」
 違和感なく可愛らしい声で叫べるようになっている自分が嫌だ。そんな思考と同時にスパクロの先端から魔力砲撃が放たれる。
 だが、同時にすばるんの方も攻撃を開始した。
「ネェェェェェェブルッッ、レェェェェェェェザァァァァァァァァッッッ!!」
 “へそ”から放たれる極太レーザー。改めて見ても冗談のような光景だが威力は本物だ。
 だが、スパクロにより増幅されたクロスファイアシュートもその点だけを見れば引けを取らない筈だ。前々回、なのはの収束魔力砲と同等の威力を誇ったのだ。その威力は確かに折り紙つきといっても過言ではないだろう。
 まずは、なんにしてもあの攻撃を防ぐ。その為にティアナはいま自分の放つことの出来る最大砲撃を選んだ。
 だが、二条の攻撃が激突した瞬間。ティアナの放ったクロスファイアシュートはまるでガラス細工か何かのようにあっさりと砕けた。
「はへ?」
 目の前の信じられない攻撃に、思わず間抜けな声を上げてしまうティアナ。
 その間にも、クロスファイアシュートと激突したにも拘らず、まるで減衰する気配を見せないすばるんのレーザーは再び、射線上にある物体を全て飲み込んでいった。
 奇跡的なことにレーザーは先程とは逆、ティアナの左側を削っていくにとどまった。先程と同様、相手の砲撃が外れたことにより命拾いしたのだ。
「あれー? また外れちゃった。この攻撃おへそから出るから照準があわし辛いのが難点だなぁ」
 ティアナの視線の先ですばるんは首を捻りながら呟いている。もしかしたらティアナが相殺する為にこちらから攻撃した事実すら気づいてないのかもしれない。
「ちょ、ちょ、ちょっとどういうことなのよ一体。なんでアイツの攻撃だけ冗談じみた威力って言うか、あっさりと私の砲撃を潰せるのよっ」
 ありえない事象に、やや混乱しながら呟くティアナ。そう、威力だけを見るならばすばるんのレーザーもティアナの砲撃もそれほど変わらない筈だ。
 それなのに、ティアナの砲撃だけまったく効かない理由、それは――
『RA……だ』
 無駄に重厚なスパクロの声が響く。
「あ、あーるえー? なによそれ?」
『覚えているか、先程のリリカルモンスターの事だ。貴様の砲撃では傷一つ付けられなかったが、あの娘はいとも簡単にあの化物を屠った。おかしいとは思わんか?』
 思考する。そうだ、あの時から不思議ではあった。あの触手状のリリカルモンスターはスパクロから放たれる規格外の攻撃においても無傷だった。始めは異常な防御力じみた物を持っているかと思ったが、すばるんはそれをあっさりと潰してしまったのだ。
 ティアナとすばるんの攻撃、その最大の違い。それが――
『RAだ。私達ウルトラデバイスには一つの特徴がある』
「あ、あんた達のシリーズ。ウルトラデバイスって名前なんだ……またセンスが、いや、ごめん。続けて」
 思わず突っ込んでしまったが、今はそれどころではない。とりあえず続きを促す。
『その中の特徴の一つとしてシンクロ機能がある。これはマスターとデバイスの間の信頼関係により上下し、そのシンクロ数値が規定数値を超えた時のみ、RAは使える』
「……微妙と言うか、またパクリ臭い設定が……えっと、つまりは必殺技みたいなもんなの」
『少々趣は違うが認識はそれで構わないだろう。RAは通常攻撃と比べると威力云々の前に文字通り次元違いの攻撃になる。通常攻撃では歯が立たぬし、同様の技術で成り立っているリリカルモンスターもRAでなければダメージを与えることができない。それがRA……リリカル・アタックだ!!』
「またそんな名前なのっ!? つーかリリカルなら頭文字はLでしょうが!」
『………………そこは臨機応変に!!』
 何をどう臨機応変に対処すれば良いのだろうか。それにしても、コレ関連においてまともなネーミングセンスに期待するほうが間違っているとは思うが、盛大に肩を落とさずには居られない名称である。
『なお、あの娘の場合はいわゆるヒーロー的設定を元に作られているゆえ、ロマン・アタックとでも呼称しようか……ロマンはRで良かったよな?』
「どうでもいいわ、そんなのっ!」
 確かに名称はひたすらどうでもいいが、この状況そのものは忌避している場合ではない。なにしろ本当に命懸けなのだ。
「とりあえず聞いてみるけど、そのRAを使うのに必要な数値ってどのくらいなの?」
『およそ五十以上といったところだな』
「…………それで私達の数値は?」
『三だ』
 予想通りとはいえ、低すぎる数値である。色々と気になるところはあるが、いますぐそのリリカルなんたらに頼ることは出来ないとティアナは結論付けた。
 それでも、悲観することなどない。元々戦力的に不利な戦いなどなれている。RAなど使わなくても、スパクロはそれだけでも十分な戦力として見ることは出来るだろう。
 あくまで相手の攻撃と合わせられないと言うだけ、威力が同等にあるのならばまだ戦いようはある。
 状況は絶望的などではない。ティアナにしてみれば、なのはと戦うより随分と気の休まる対戦相手であることが幸いした。
「まぁいいわ、それならそれで戦いようは幾らでもある。あのバカにそこらへん思い知らせてやろうじゃないの」
 状況に対応してきたのか、精神が随分と高揚しているようである。
『ふむ、頼もしいセリフではあるな……しかしなぁ……』
 だが、そんなティアナに対し困ったように呟くスパクロ。
「なによ、まだなんかあんの。もうこうなったらどんな理不尽でも受け入れるわよ」
 随分と男前な様子で呟くティアナ。それに対しスパクロは至極軽い口調でこう呟いた。
『いやぁ、実はさっきも言おうとしたんだが魔法がもう撃てん、MPが切れてしまったのだ、はっはっは』
 朗らかに告げられた事実をティアナが理解するまで、数秒の時間を要した。
「………………MPってなによ?」
 とりあえず表面上は冷静を保ったまま真新しい単語について尋ねるティアナ。
『知らんのか、マジックポイントだ。一晩休まなければ回復しない』
 それに対して至極当然といった様子で答えるスパクロ。二人の間に微妙な沈黙が流れた。
「なんなのよ、その設定! つーかそのふざけた仕様は何なのよ」
『何を言うか、あのような大規模な威力の攻撃魔法をリスク無しで連発できるわけがないだろう。これでも倹約していたのだぞ!』
 怒られるなど心外な、といった具合に答えるスパクロ。それにティアナは藁にも縋るような気持ちで問いかける。
「まったく撃てないの?」
『まったくだ。初歩的魔法の一つも発動できんだろう』
 すがるようなティアナの言葉にも、何故か自信満々な様子で答えるスパクロ。流石のティアナもこれには頭を抱えるしかない。なにしろまともな魔法一つ使えないというのだ。絶望的にも程があるとしか言いようがない。
「ねー、ティアー。お話は終わったー、それじゃあ続けるよー」
 そんなティアナの様子を遠くから眺めていたすばるんが、待ち時間に飽いたかのように語りかけてくる。
 ひぃっ、と小さく悲鳴を上げるティアナ。
「な、なんかないの。何でもいいから奥の手とかそんな感じのは」
 そういったものに頼り始めるとは、随分と彼女も動転している模様である。
 だが、そんな彼女の必死の願いが届いたのかスパクロはやけに楽しげに笑い声を漏らす。
『ふふふ、その言葉を待っていたぞ。この私を誰だと思っている奥の手の一つや二つ、搭載せずにウルトラデバイスの名は語れんよ』
 なにやら随分と自信満々の様子である。不安は拭えないが、そのウルトラデバイスとやらが規格外のデバイスであることは身に染みて理解している。
 ならば、後はそれに未来を託すしかない。
「どうすればいいの!」
『私の中央付近にスイッチがあるだろう。それを対象に向けて押すんだ!』
 確かに彼の言うとおりにステッキの部分にはいくつかスイッチが設けてある。今まで何故気づかなかったのか不思議でならないが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「どれを押せばいいの」
『どれでも構わん』
 スパクロの言葉に果てし無くいやな予感がしたが、やはり迷っている暇はなさそうだ。
「それじゃー、いくよーティア」
 すばるんは既にやる気満々である。なんにしてもすばるんに先に攻撃されるわけにはいかない。
「ええーい、こうなったらどうにでもなれ!!」
 ティアナは振り向きざまにスパクロをすばるんへと向け、ステッキに備えられたスイッチを押す。
 カチリ、と確かな音がして…………だが、何も起こらない。
 不安に駆られたままティアナはステッキにあるスイッチを適当に押してみる。だが、やはり何も起こらない。
 そこへスパクロの自慢気な声が聞こえてきた。
『ははは、どうだ。微弱な赤外線を照射することによりテレビのチャンネルを変えることが出来るのだ。すごい機能だろう!』
「こぉのっ、役立たずがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 まるで役に立たなかった。
「それじゃあ、いくよぉー。三度目の正直っネェェェェェェブルッッ、レェェェェェェェザァァァァァァァァッッッ!!」
 ティアナの視界が、レーザーの極光に覆われる。真っ直ぐにこちらへと向かってくるレーザーの軌跡は、今度こそ外れない。
 今日一日で、どれだけそう思っただろうか。けれども今度こそ、ティアナは目の端に涙を浮かべながら、それでも精一杯の笑顔を浮かべて呟いた。
「……あ、死んだな」



 そして、ティアナは光に飲み込まれた。



 ●



「おーい、ティアー起きろー」
 耳元で囁かれる声は、ひどく懐かしい物だった。
 ずっと前、本当に昔。こうしてティアナは起こされていた。
 だから、その当時のまま、彼女は甘えた声を出す。
「やぁーん、もうちょっと寝てるー」
 いまの彼女からは到底考えられない声。けれどもそれは何処までも自然な声色であった。
「しょうがないなぁ。ほぅら起きないとイタズラしちゃうぞー」
 だが、そこに確かに含まれる違和感。なんだろう、この感覚は。
 自分はいま、ありえない境遇に直面している。
 思考する。自分は今の今まで何をしていたのか。
 そう、そうなのだ。自分は確か……変な小動物に絡まれて、そして自分のデバイスがおかしくなり、なのはさんや変な触手の怪物、そしてスバルと戦っていた。
 そこで気づいた。
 ああ、なんだ。今まで見ていたものは夢だったのか。
 そう、そうだ、夢オチなんだ。理不尽とか安易だとかはもうひたすらどうでもいい。
 夢で、良かった。
 ひたすらにそう考えたところで、ようやく安堵が巡った。
 そこで、先程から度々聞こえてくる“男”の声が耳元で囁かれた。
「それじゃあ、遠慮なく……ちゅぅぅぅぅぅぅ」
 ティアナの背筋に走る悪寒。急速に覚醒する意識のままに瞼を開ける。
 すると目の前には、こちらに唇を突き出している、青年のどアップが展開していた。
「うぎゃあああああ!!」
 あまりにも乙女チックとは正反対を行く叫びを上げつつも、的確にその側頭部を殴り飛ばすティアナ。
 吹き飛ぶ男。彼は地面を二転三転と転がるとそのまま顔面から見事に地面へと着地し、そのまま動かなくなってしまった。
 その間もティアナの心臓の動悸は治まらない。
 いまのは誰だ、誰なのだ。あんな人間、ティアナは知らない。知るわけがない。
 けれど、見たことがある。いや、今でもはっきりと思い出せる。
 瞼を開いたときに見た“男”の顔は――


「酷いやティアッ、お兄ちゃんの顔を殴るなんて……妹にも打たれた事なかったのに!!」


 ティアナの兄、ティーダ・ランスターそのものであった。
 真っ赤に腫れた頬を押さえながら、起き上がるその顔も、かつての兄そのものである。
 ティアナの思考が纏まらない。いま、自分の身に何が起こっているのかが全く解らない。
「な、何が起きてるの……いったい……」
 呆然と呟くティアナ。それを受けてティーダ・ランスターそっくりな顔をした人間は、頭の上を指差しながら混乱するティアナに囁いた。
「上を見てみ」
 その言葉に釣られるように、ティアナは自分の頭上を見る。
 そこには物の見事な天使のわっかが乗っていた。


「解りやすいなぁっ、おいっ!!」


 状況確認よりも、まず一番初めにツッコむところが何処までもティアナ・ランスターであった。



 魔法少女リリカルティアナ 第4話 ライバル?もう一人は鉄腕魔法少女かな? 了



 次回予告!!



 第4話にして死亡確認ティアナ・ランスター。


 目の前に現れたのは自称ティーダ・ランスター。


 急転直下の大展開。はたして作者はほんの少しでも次の展開を考えているんだろうか!?(考えていません!)


 波乱の続く魔法少女リリカルティアナ地獄編、はじまるのかな。



 次回 魔法少女リリカルティアナ 第5話 【ここは死の町、死海温泉かな?】にリリカルマジカル♪







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